04

「…出来た」


 自作のお弁当を手に、あたしは満面の笑み。

 今日も美味しそう♡

 って……


 …本当は溜息が出そう。



 音楽屋でギターを弾き倒されて以降…またもや、相手にされない日々が続いた。

 夏休みに入ったら入ったで…晋ちゃんはバイトに励むようになってしまった。


 バイト。

 FACEのドラマー、八木さんち。


 FACEと言えば…

 あたしの知らない間に…ライヴに出てた!!

 本当は怒り心頭なんだけど…それをぐっと飲み込んで。

 あたしは…お弁当を手に、今日も八木建設に向かった。



 …今日で何日目だろ。

 気が付いたら、夏休みも終盤。

 電話で約束を作ろうと思っても、晋ちゃんはバイトとバンドでクタクタになってて、いつも寝てる。

 彼氏と遊びまくる高校一年の夏休み…って夢は、儚くも消え去りそうな勢い。


 だけど…あと一週間。

 その一週間の間に、どこかに出かけられないかな。



 今日こそ、それを切り出すために。

 あたしは、固い決意で八木建設へ。


 ちょうどお昼前に辿り着いて。

 あたしを見た、他のバイトの人達が晋ちゃんに指差した。



「お疲れ様」


 お弁当の入った紙袋を手に、晋ちゃんに近付くと…


「おまえ…ホンマええ加減、もうええって」


 晋ちゃんが露骨に嫌な顔をした。


「…え?」


「毎日来るこたないやん」


「だって電話しても寝てるんだもん。ここに来なきゃ会えないじゃない」


 唇を尖らせるあたしを後目に、晋ちゃんはガシガシと頭を掻いた後…

 他のバイトの人達の背中を見て。


「ホンマ、夏休みやねんで?俺が何しようが自由やないか」


 不機嫌そうに溜息をついた。


「…何よ、その言い方」


 溜息なんて…やな感じ。

 あたしがどれだけ頑張ってるか、気付かないの?


「傷の事は俺が悪かった。学校ではおまえの彼氏ができるまで、その代役をやるで?けど、休みぐらいはフリーでええやろ?」


「…え?」


「まさか毎日来る思わへんかったから、弁当ありがとな言うたけど、もうええから」


「……」


 フツフツと怒りが沸いて来た。


「んじゃな」


 背中を向けた晋ちゃん。

 その背中に、あたしはお弁当を投げつける。


「いって……なんやねん」


 低い声。

 あたしは晋ちゃんを見据えて言う。


「何が…何が代役よ」


「あ?」


「毎日あたしを見て分かんなかったの?あたしは、晋ちゃんに代役をやってもらってるつもりなんてなかった」


「…そういう約束やったやろ?」


「……」


「おまえが言い出したんやないか」


「それは……」


「も、帰れ」


 強く噛み締めた唇が痛い。

 涙が浮かびそうだったけど、絶対泣かない。

 あたしはお弁当をそのままにして駆け出した。




「……」


 しばらく走った後で…立ち止まる。

 お弁当…あのままにしておくの、良くないよね…。

 …でも、もしかしたら…

 晋ちゃんが、悪いと思って片付けてるかも…?


 そんな淡い期待をし…ううん、してない。

 期待なんて、全然してない。

 そうじゃなかった時のショックを考えて、絶対いいようには思わない事にした。



 だけど…


「……」


 いざ、さっきの場所に落ちたままになってるお弁当を見ると…悲しくなった。

 しゃがんで、お弁当を拾う。

 …今日は、色合いも綺麗で…力作だったのにな…


「…ごめんね。投げたりなんかして」


 お弁当に向かってつぶやく。

 そしてゆっくりと立ち上がって、そのまま公園に向かった。



「…いただきます…」


 晋ちゃんのために作ったお弁当を膝の上で開いて、両手を合わせる。

 投げてしまったせいで、ちゃんと並べてた彩りも崩れてしまった。

 これはこれで…お祭りみたいでいいかもよ?なんて…一人で思いながら、お箸を手にする。


「…おーいしーい…」


 冷めた口調でそう言いながら、あたしは黙々とお弁当を食べ進めた。



 ――あたしが言った。

 本当の彼氏ができるまで、って。

 なんで…あんな事言っちゃったのかな。


 一目惚れしました。

 好きです。

 って……どうして言えなかったのかな。

 言ってたら…こんな事にはならなかった…よね。



 …晋ちゃん、冷たい目であたしを見た。

 もう相手にしたくないって顔だった。

 休みぐらいフリーでいさせてくれって…

 それって、ずっと窮屈だったって事かな。



「……」



 ……ダメだ。

 もう…あたし…


 完全に…




 心が折れた。

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