第二話 斧戦士の斧戦士による斧戦士のための

~あらすじ~


謎の襲撃者ベオル・フィアーライトを退けた炎剣士・アーク。

彼らは旅を続けるため、喧騒が残る町を早々に後にするのだった。


次に向かった地で彼らが出会うものは、敵か、味方か…




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「最近の連中はよ…」


 長剣、大剣や小剣。千差万別の刀剣が所狭しと並べられた一室。

鍛えられた両腕を組み、金髪の青年が語り掛けるように呟く。その声には不満の色が混じっていた。


「どの武器が優れてるのかと話が進むと、すぐ剣を選びやがる」

「それは仕方が無いだろう」


 愚痴るような青年の台詞に、今度はその傍らにいる紫髪の少女が答える。


「斬撃、刺突の双方を行う事において、あれほど理想的なフォルムは無いからな」

「そりゃあ分かるさ。相手にした日にゃ痛いほどな」


 淡々と語る少女に対し、青年はなんともバツが悪そうに眉を顰めた。


「だが、斧使いの身としちゃあもう少し斧の長所を見てもらいてェもんだ」


 そして、苦い表情でそうぼやく。


「…確かに」


 少女は表情を変えず、頷いた。


「単純な破壊能力を鑑みれば、斧というのは実に理に適っている」

「だろ? 鈍器の鈍重おもさと、刃物の切れ味…その両方を併せ持ってるんだぜ?」

「扱いこそ慣れが必要だが、使いこなせればこれほど頼もしいものも無いな」


 さて。そこまで言い切ると、青年と少女は互いに同じ方向を向く。

 視線の先には訝しげな顔をした男――それも青年以上に隆々の――が、カウンター越しに立っている。


「そんなわけで…」


 青年と少女はカウンターに片肘をつき、身を乗り出した。


「是非、この店にも斧を置いてみないか?」




 それから一分と経たず、二人は見事その建物から物理的に叩き出された。

 事の一抹を最初から傍観していたバンダナ頭の少年が、呆れたように呟く。


「…アホか、あいつらは」


 その建物、詰まるところ店に掲げられた看板には、こう書かれていた。


『刀剣専門店 ブレス・オブ・ザ・ブレード』




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 此処は《鉱山の街》カルナス。枕詞の通り、鉱床を有する山に根差した街。

その街中に佇む酒場『眠れる黒鋼亭』の一角に、アーク達三人はたむろしていた。


「流石に鉱山の街って言うだけはあるぜ。見ただろ? あの剣」


 香りが吹き飛ぶ程に砂糖を投入したコーヒーをあおり、アークは語り出した。

近年まで砂糖は割かし高級品であったが、どこぞの国が大規模な農場を開墾してからお手軽に手に入るようになったとか。実際、こんな所でも無料タダのサービスだ。


「精錬がしっかりと行き届いてる。その証拠に、もう音から違うんだ。よその三流武器屋の剣が『ガシィ!』って感じなら…あの剣はそう、『キィン!』だ」


 業物の数々を見て上々なのか、随分に口が回る。

 さて、アークの傍らに立て掛けられた大剣を観察してみれば、先刻の戦いに用いられたものとは違う剣である事が見て取れる。屍竜との死闘もそうだが、それ以前の無茶もあったので『打ち破るものアサルトバスター』の名を冠す愛剣は修理に出しているのだ。

 今此処にある大剣は、先程そこそこの金をはたいて購入したものである。


「そうかそうか、そりゃ眼福な事だ」

「…おめでたいな」


 しかし、そんなアークとは対照的に、他の二人は見るからに不機嫌だ。


「斧の何処が悪いってんだ…クソッタレ店主め! あの筋肉は飾りか!」


 金髪の青年、ラルダは拳を握り締めて唸った。

 よく見てみれば、彼の傍らには得物である大振りの斧が置かれている。


「破壊力に重力と遠心力を上乗せすれば…最強…最強のはず…斧は最強だ…」


 紫髪の少女、フラン。彼女は彼女で、呪詛のように言葉を吐き出している。

 その彼女の横にも、分不相応なまでに無骨な斧が置いてあった。

 左からは歯軋り、右からは呪詛が聴こえる。最悪のデュエットだとアークは内心で呟いた。

 



 さて。彼らは何故この場に一堂に会しているのか?

それは斧使いの二人が意気投合したからである。シンクロニティという奴か。

アークも、ラルダの気質が自身に近しいので嫌悪感を抱く事もなかった。




 各々がオーダーした軽食や飲み物を口に運びながら、三人での他愛の無い会話が続く。周りには休憩中の炭鉱夫や、昼間から飲んで管を巻くロクデナシの姿が見える。


「で? 闇鍋のおでん? 違ったっけ、まあいい。アーカルドさんよ」


 ふと、ラルダが思い出したように呟いた。

 嵩の減ったコーヒーに更に砂糖を投入しながら、アークはラルダに視線を向ける。


「どうしたよ?」

「大した事じゃあないが、聞いておこうかと思ってさ」


 頬杖任せに頭を垂れるアークの視線を受けながら、ラルダは続けた。


「風の噂に聞いたんだよ、《深淵の爪アビサルクロウ》を相手に随分とご活躍だとか?」


 《深淵の爪》。

 近年になって突如姿を現した、謎の勢力。

 無差別的に村や町を襲撃するという点では賊と余り違いは無いのだが、相違点は、簒奪さんだつを行うわけでも無く、ただ殺戮、破壊の限りを尽くす事だ。

 そして、並の戦士程度では歯牙にもかけられない個々の戦闘能力。以前アークがしのぎを削った『屍霊術師』ベオルですら、一構成員に過ぎないという。

 目的こそ謎だが、それが彼らをより一層不気味に感じさせていた。


 アークは得意げになるわけでもなく答える。


「行く先々で出くわすんだよ、ジャマ臭いったらありゃしねぇ」


 偶然なのか、それとも彼らに狙われているのかは定かではないが、アーク達は旅先で幾度、《深淵の爪》と接触していた。無論、敵対する形でだ。


「活動範囲が広がったのかね。それとも何か法則があるのか?」


 思考するラルダを余所に、自論を展開し始めるアーク。


「いや俺としてはこう考えるね。力を蓄える前に若い芽、要するにこの天才剣士を亡き者にしようと躍起になってるって事さ。それなら辻褄が――」

「合うものか」


 その頓狂な自論を、そこまで黙っていたフランが一蹴した。


「お前如きの木っ端に《深淵の爪》があれだけの戦力を割くとは思わん。言わせて貰えば実に非効率的だ。参謀がお前と同等のおつむなら話は別だが」


 平たく言えば『お前なんぞに大群出してたらキリが無いわ』という事である。

 真っ向から否定されたアークは、露骨に表情を渋らせた。

 一方でラルダは、フランの言葉に賛同いったように頷いている。


「たかが一個人を狙うには大仰過ぎるか。偶然偶然、また偶然か」

「恐らくは。確かに成り行きで少なからず奴らの鼻を挫いているがそれだけの理由で私達を狙うと言うならば、それは過大評価というものだ」


 淡々とフランは続け、そしてトドメに。


「この脳足りんノータリン一人、放っておいても勝手に自滅するだろうしな」


 アークはいきなりキレた。


「てめェーッ!! 表に出ろォォ―――ッ!!!」


 そして啖呵を切った、その瞬間。


――ズドォォォ……


「な…何だァ!?」


 唸るような轟音と共に、余りにも唐突な地響きが起こった。

突然の事態に、酒場の中は困惑にざわついている。


「…お望み通り、表に出るとしよう」

「やれやれ、タイムリーなこった」








 未だ戸惑っている客達を余所目に、アークは真っ先に酒場から飛び出した。

 そして、彼はすぐ異変に気付く――視界が暗い。日が沈む時刻まで話し込んでいたのか?


(…なんてな、そんなワケあるかい!)


 地面ごと彼を覆っていたのは、巨大な『影』。それは建物の影などでは、無い。

 すぐさま後ろを振り向くと、アークはその実像を目の当たりにした。


 それは、岩塊の集合体のような外見をした『魔法生命体ゴーレム』だった。

 寸胴のような灰色の胴体から、無骨に削り出された岩石の手足が伸びる、人型の異様。更に特徴的なのが、尖塔状の頭部中央に光る赤色の結晶体だった。


 人の背丈など通り越して余りある巨体が、家屋を蹴り潰し、石床を踏み壊していく。まさしく、破壊が形を成して動き回っているといったところか。


「噂をすりゃ影、ってか? にしたって、こんな奴まで用意すんのかよ」


 圧倒的とも言える巨躯を睨みながら、アークは一人呟く。

 動きこそ決して速くはないが、大型ゴーレムの脅威は、その破壊力と耐久力にある。この街に勤めている毛が生えた守衛程度では、この破壊の権化を止める事は出来やしないだろう。


「お前さん方、随分気に入られてるようだな!」

「…酷い偶然が重なったものだ」


 一刻遅れて、フランとラルダが酒場から出てきた。手には勿論、大斧が握られている。それから一拍二拍置き、酒場に居た客達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


「ったく、面倒臭いから本当は放っておきてーけど…」


 アークがバンダナ越しに頭を掻く。この場にあって尚、事態と面倒を天秤に掛けている。

 それを余所目にフランは肩に斧を担ぎ、無表情のままゴーレムの方へと進んだ。


「倒すしかあるまい。目的は不明だが、捨て置けば被害が増えるぞ」

「…仕方ねぇ、寝床が無くなるよかマシか」


 鞘に収まった大剣を抜き、アークはフランを追うように疾走した。






 整備された石畳を蹴り飛ばし、身の軽さがウリであるアークが一番に距離を詰めた。ゴーレムの巨大な脚部は歩幅こそ広いものの、動作そのものは鈍重であった。

 大剣の柄をしっかと握り締め、アークは眼前にそびえ立つ巨人を睨み付ける。


「町中で野宿なんてのは笑えねーからな…」


 そしてそのまま力強く地面を蹴り、疾り、一直線にゴーレムへと突撃する!


「ブッ壊すッ!」


 アークは加速度を殺さぬまま、鋭く前方へと大きく跳び上がった。

 流れるような前方宙返りを行い、放たれるのは胴体目掛けの一撃必殺・唐竹割りだ!


――バキィィンッ!


 吸い込まれるような一打を見舞い、破砕音が木霊する。


「決まったぜ!」


 しかし、そんな事は全くなかった。

前回の屍竜同様、斬撃はその堅牢な岩肌に弾かれる…どころでなく。

叩き付けた刀身の中ほどから、刃がポッキリと折れ飛んでしまっていたのだ。


「オアアー! マジかよオイ!」

「岩がそう簡単に斬れてたまるか!」


 後方からは容赦の無いツッコミが飛んでくる。追い付いてきたラルダだ。

岩をバターのように切り裂く、などと甘くはいかない。それはファンタジーの世界である。


『ШИНДЕМОРАИМАСУ....』


 アークの耳にしか届かない程度の、魔術式言語の言葉がゴーレムより発せられる。

直後、反撃とばかりに滞空したままのアークを太ましい剛腕で薙ぎ払った。

 鈍い風斬り音を伴って迫る岩石の腕を、アークはすんでの所で蹴って躱すも態勢が崩れる。自由落下! 鈍い音!


「あだぁッ!」

「…考えも無しに一人で突っ込むな、単細胞」


 目の前の背中を打ち付けたアークに対し、フランは眉の一つも動かさず呟く。

 アークは少しばかりダメージを受けたものの、すぐに起き上がった。手には刃が50%オフになってしまった、情けない大剣未満が握られている。


「代用品のナマクラじゃあ荷が重かったか…クソ! そこそこしたんだぜ、これ」

「ご愁傷様だ。精錬がしっかり行き届いてるんじゃなかったのか?」


 ラルダの茶々に反論しようとしたその時。ゴーレムの頭部にある結晶体が規則的に発光し、明滅した。

 その想定外の挙動に、アーク達は身構える。


「何だ…?」


 結晶体から発生する粒子が、空中で少しずつ形を成していく。

それが形作ったのは、アークたちと同じ生物――人間の姿だった。


立体映像ホログラフィ…か?」


 そうラルダが呟くと、フランは彼に聞き返した。


「…ほろぐらふぃ?」

「魔導科学の話になるが、そこに無いものを投影する技術だ」


 『魔導科学』とは、平たく言えば魔術を応用した科学技術である。

大陸では過去百余年前に生まれたものと伝えられており、技術者もそう多いものではない。


「しかし、そうなるとあのいけ好かねぇ野郎は一体誰だ?」


 アークの言ういけ好かない野郎、というのは、映し出された人物の事らしい。


 彼らの前に現れたのは、藍染めローブを纏った痩躯の男だった。

その顔に浮かべる薄笑いを、銀色の長髪と片眼鏡モノクルが一層際立たせている。


「ふ…」


 半透明の立体像が微かに動き、口端を歪めて小さく笑った。

 対峙するアーク達の前で、その笑いと肩の震えが次第に大きくなっていく。


「はーっはっはっはっはっは!」


 そして最後には…高らかな大笑声となって周囲に響き渡った。

 呆気に取られるアークとラルダを余所に、フランは白い目で男を一瞥する。


「…何者だ?」

「おっと、これは失礼。今のは、役作りのとでも思ってください。

 …さておき。お初にお目に掛かります、可愛らしいお嬢さん」


 投影された男は大笑いを止め、不敵な笑みを浮かべて一礼した。

片眼鏡越しに垣間見えるその眼には、絶対的な自信が満ちているように感じる。


「名乗るほどの者ではありますが、私は魔導技師ソリュード・エルディオス。以後お見知り置きを」

「…自分で天才を名乗るのか、このオッサン」


 稀代の天才剣士を自称するアーカルド・S・ハイムが男を評している。


「お前は自分の胸に手を当ててみてから物を言え。街中にこんなデカブツを放って、何が目的だ」

「さて。試運転、と答えれば貴女は満足しますか?」


 ソリュード、と名乗った男がフランの質問に更に問うように答える。

フランは嘯く第二の天才を睨め付ける。そんな訳があるか、とばかりに。


「まあ、当然それ以外の思惑があると勘繰っているのでしょうが――」


 そこで男の姿がふつり、と途切れる。直後、その消えた空間を――ゴーレムの足蹴りが横切る!


「…ちぃ!」

「っとぉ!」


 フランは咄嗟に横に転がり、ラルダは後ろに飛び退いて躱す。遅れて風圧が身体を撫でる! この威力をまともに受ければひとたまりも無いだろう――そしてそれを受けた者がいた。


「どぅおおっ!?」


 天才問答の心当たりをチラリと探っているその一瞬、その油断。命取りとはこの事だ。遅れた回避運動を折れた剣での防御で誤魔化すが、質量による暴には抗うべくもなかった。


「ぬあぁぁぁぁ――――……!!」


 情けない叫び声と共に、アークは盛大に蹴り飛ばされて宙へと消えていった。


「――それをお教えする事は出来ません。ですが、止めたければどうぞご自由に」


 姿こそ無いが、ソリュードの声がゴーレムを構築する結晶体から聞こえてくる。

脅威一つを今しがた排除したが、さも当然だという素振りが声色から窺えるのみだ。


 巨岩の集合体は斧使いの二人へと向き、周囲の建造物を破壊しながら排除を敢行せんとしている。


「あれは死んだか!?」

「奴は存外しぶといが…私は死んだ方に銀貨300だ」

「つまり賭けにならんって事だな」


 二人はまだ飛び出さない。生身の相手ならいざ知らず、奴の防御力は先に見た通りだ。無策で斬りかかった所で決定打にはなり得ず、反撃のリスクばかりが大きい。

それは、斧が如何に強力といえどもだ。それを理解しているからこそ、攻めあぐねる――


「"コア"がちっと高いな」


 だが、ゴーレムにも弱点が存在する。"核"である。

 ゴーレムは核に刻まれた魔術式によって行動し、周囲のエーテルを原動力として稼働する。脳と心臓を兼ねるこの部位を破壊しさえすれば、活動停止に追い込む事が可能なのだ。


 ――無論、それは破壊出来ればである。ラルダが察するに、核は頭頂部の結晶体だ。エーテルの吸収効率の為か一部が露出こそしているが、なにぶん接近するには位置が高過ぎる。そして、剥き出しにしている以上多少の強度もあると仮定すれば、飛び道具も最良ではない。


「…ならば私が援護する。踏ん張りは利く方か?」


 その声と共に、ラルダは風の流れに変化を感じる――冷気を。

 問いかけるフランの右手には戦斧、そして徒手の左手には蒼に輝くエーテルが集約していた。


「『』も行けるのか。小綺麗な顔して物騒だな」

「無駄口を叩く余裕があれば十分と見た」


 ニィと笑み、ラルダが斧をクルリと一回転させる。それが突撃準備――

 示し合わせたようにフランは身を屈め、左掌で地面を垂直に打ち据える。


「――凍て付け!」


 叩き付けた蒼のエーテルが具現する。氷だ!

地面から無数の氷柱が突き立ち、一直線にゴーレムへと向かって奔る!

そしてそれに追走するように、斧を構えたラルダが両の脚で地を蹴っていく。

 氷刃は瞬く間にゴーレムに届き、その両脚部をびっしりと氷が覆う。

無論、それで止まるような相手ではない。鈍くも動く両の脚は、すぐに地表の氷塊と離れる。

 そもそも、それが狙いではないのだ。


「だっしゃあッ!」


 そこにラルダが急襲する。地表は氷を纏っているというのに御構い無しの勢いだ。

その滑りの慣性すら利用して、刹那。長柄のバトルアックスでの凄まじい横一閃が走った。


――バキャァッ!


 鋼鉄の戦斧であっても、岩石を破壊するなどとは困難を極める。

 だが。その刃は負けるどころか――その岩を"打ち砕いた"。


 ゴーレムの脚部が、両断された。氷層諸共にバラリと砕け、断面にはうっすらと霜が走っている――支えを失った胴部はズウン…と地面へと落下し、周囲の石床をひしゃげさせた。


「ワンダウンだぜ!」


 こうなれば、巨人は移動能力が欠落した的となって核への攻撃が容易となる。容易といっても、先に比べればの話とも言うが。両腕も未だ健在で、そして更には――


『УЧИНУКИМАСУ....』


ボシュッ! ボシュゥ!


 鈍く輝いた核から、高速射出される魔力の弾丸!

咄嗟に躱したラルダの身体をギリギリで掠め、民家を直撃して小爆発を起こす。


「あっぶねえ! こりゃもう一つ策が必要と見たぞ」


 腕と弾丸! 二重奏! 崩れて尚、盤石の布陣!

 一人での攻略は存外厳しい。なればこそ。


「――どちらかを捌く。選択はラルダ、お前に任せる」


 コンビネーションの必要性を理解するフランが間合いに入る。

 ラルダの答えは――


「なら腕を頼むぜ!」


 言い切るや否や、並走して二人が突貫する。

 ゴーレムはそれを迎え撃たんと、胴体を軸とした不格好な右拳を放つ!

 風を撃ち抜かんばかりの一打をラルダは右、フランは左に避け――今度は魔力を帯びた左手をゴーレムの腕に打つ! 打たれた場所を起点に右腕が一瞬で凍結していき、その動きを大きく鈍らせる。

 更に、フランは右手の戦斧をゴーレムの左腕目掛けて、投擲!

そしてそれは直撃し、左腕をもまた凍り付かせた。魔法剣ならぬ、魔法斧の一擲だ。


「…詰めは任せたぞ!」


 さすれば、残るはノーガードの核! 動きの覚束無いゴーレムの右腕を蹴って、ラルダが一気に肉薄する!


ボシュ! ボシュボシュゥッ!


 そこに魔力弾が一、二、三連射! ここは空中、ラルダに逃げ場無し! 絶体絶命だ!


「ぬおぁっ!!」


 一発目を身を捩って回避!


「どりゃあっ!!」


 二発目を、斧の腹で弾き飛ばす! だがその死角から、間髪入れず三発目!


「チィッ!」


――ボォン!!


 直撃し、魔力の爆発がラルダを飲み込んでいく。


「…俺を倒すにゃあ、足りなかったな」


 しかし晴れた爆風の最中、斧戦士の勢いは死んでいなかった。

斧を持った腕に力を込め、ラルダはインパクトの瞬間を待ち構える。

核は魔力を再びチャージし始めるが、もはや遅かった。相対距離、既に直近――


「こいつでオダブツだぜッ!!」


――ガギィィィ……ン……!!


 戦斧の刃が、結晶体を打ち据えた。ビシリと亀裂が無数に走り、核の中枢へと向かっていく。そして――発射寸前だった魔力が行き所を無くし、ゴーレムの頭部は爆音とともに爆ぜた。衝撃波と破片がラルダを打ち据える!


「ぐっへえぇー!!」


 ラルダは半壊の家屋へと吹き飛ばされたが、命に別状のあるほどでもなかった。

 核を喪失したゴーレムは四肢の魔力の繋がりが途切れ、支えを無くした両腕は地へと伏した。


――ド…ズゥン…


 もう、この巨人だったものが動く事は無い。歪んだオブジェが通りを塞いでいるだけだ。




 二度の爆発で所々が焦げ付いているまま、ラルダはフランの元へと向かった。

今のラルダは両手に斧を握っている。投擲された彼女の得物を回収してきたのだ。


「…片付いた、か」


 フランは、片膝をついて座り込んでいる。その肩が、微かに上下しているように見えた。


「魔術的サポートのお陰でな。と…大丈夫か? 顔色が良くないぞ」

「問題無い、少し慣れない事をしただけだ」


 ラルダから斧を受け取り、首を横に振る。

 潜在魔力を使い過ぎたのか、とラルダは推測する。岩石の内奥まで急速凍結させる魔術だ。強力であるほど魔力の消耗は比例して激しくなり、疲弊する。全力疾走を重ねたようなものである。


 …それと同時に、血の臭いを嗅ぎ取った――が、恐らく自分のものかと思い、すぐに頭からは忘れ去った。


「さて、吹っ飛んだアークもだが――」


 あのソリュードって野郎の思惑も気になる、とラルダは呟いた。

 たかだか一体のゴーレムを差し向けて、チンケな破壊活動を行うだけとは考え難い。ソリュードは更に思わせぶりに、他の思惑がある事を臭わせていた。ならば――


「これで終わりではない、という事か」

「そういうこった。疲れてんなら、休んでて構わないぞ」

「まだいけるさ」


 闖入者の目的もまだ分からぬまま、二人の斧戦士は喧噪冷めやらぬカルナスの街を駆けていく――





◆◆◆



-あとがき-

さて、このBlazing Bladeは元々第三者からキャラクターを頂いて出演させるという古典芸能「キャラ募集小説」の体を取っていた事をここに記しておこうと思う。

これを書いている2018年時点では、実に13年前の募集だ。干支も一巡してしまう。


☆キャラクター提供

ラルダ・ラルティー(故・風来棒人間氏に捧ぐ)

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