第14話 ただ知るのみ

 目を覚ますと、そこは既に見慣れた光景であったが、何故か焚き火が用意されている。

 それに毛布に、傷の手当ても……一体誰が……。

 って、ここに居るのは師匠以外いない。

 まさか、師匠が? いやいや、そんな事ある筈……。


「起きたか」

「……」

「何を驚いている」

「……いや、別に」

「まぁ、そんな事言っているが、お前の考える事なんぞ、簡単だな」

「は? 何がだよ」

「どうせ、俺がお前の世話をしたことに驚いているんだろう?」


 その通り過ぎて思わず口が閉じる。

 そんな俺の反応を見てか、師匠から深いため息が1つ。

 いやいや、アンタの今までの行いから見て可笑しいと思うんだ。

 でも、まぁ……。


「あんがと」

「ほう、言えるんだな」

「人を何だと思ってるんだよ」

「すまない、少しイメージと違ってね」

「……そうかよ」


 焚き火の前に座り、小枝を入れていく。

 炎が小枝に燃え移り、弾ける様な音を立てていく。

 なぜ、ここまで黙っているのか……なんか逆に怖いな、おい。


「ガントレットに大剣」

「は?」

「レイス、お前が出したやつだ」

「いや、知ってるけど……どこで見てた?」


 口角を上げて指を上に差す。

 吊られて指の差す方へ視線を向けると、


「なんで見えるんだよ」

「それは俺の神武、ツクヨミの御陰だ」

「遠くの物が見えるのか?」

「まぁ、そうだな。距離の制限はあるが」

「なるほど……」


 ここでまた黙り込んでしまう。

 お互いに話すの下手くそか。

 そんな事を思うと、目の前に何かを差し出される。

 何かと思い、視線を向ける。


「何の肉だ?」

「お前が殺したウルフの肉だ。今晩はこれが夕食だな」

「ああ、夕食か……」


 え、待て……俺、どのくらい飯と水を取って無かった?

 思わず考え込んでいると、


「約1ヵ月だな」


 口角を上げながら言う師匠に驚愕する。

 思わず、立ち上がってしまう。


「ありえねぇだろ……!」

「いや、本当さ」

「本当なら……俺は、死んだのか!? 死人なら飯も水も必要としない!」

「生きているさ、俺もお前も」

「じゃあ何で腹も減らなければ、喉も乾かない!」

「それは、俺達が依代よりしろだからだ」

依代よりしろ?」


 師匠はナイフを腰から取り出して肉を一口代に切って、串にさしていく。


依代よりしろになった者は、まず常識から外れる」

「……どういう」

「立ち話もあれだ、座ると良い。そこまで力を開放しているんだ、少しは説明してやろう」


 俺は黙って座り、斜め横にいる師匠を見つめる。

 師匠は串に肉を指し終わり、塩を振ってから焚き火の近くに差していく。


「そもそも俺達神武使いは、既に人間じゃない。いや、半分人間が正しいな」

「半分人間? なら、もう半分は?」

「……神だ」

「は?」


 まさかの事実に思わず言葉が零れる。

 フフと師匠が笑ってから、串の向きを変えていく。


「嘘じゃない。本当だ」

「……証拠は?」

「そうだな……見てろ」


 すると突然師匠が焚き火に手を突っ込む。


「なッ!? 何やってんだよッ!!!!」


 俺は急いで師匠の腕を引いて焚き火から遠ざける。

 だが、師匠の手には火の着いた木を握りしめていた。

 それから師匠は何食わぬ表情を浮かべながら、焚き火に戻す。

 そして俺に手のひらを向ける。


 思わず目を逸らす、が、


「目を逸らすな、これが証明だ。見ろ」

「……」


 渋々俺は視線を向けると、目に映る光景に思わず息を飲む。


「な……に、が……」

「凄いだろう?」


 フフと笑う師匠に俺は笑えない。

 高熱の木を素手で持てば皮は焼け落ち、肉は焦げ二度と原型に戻る事はない。

 普通ならそうだ、だが師匠の手のひらの火傷は徐々に治っていく。

 それも火傷痕が一切なく、完全であろう手の形に。


「……だ、だがこれで神である証拠には」

「いや、普通ではない事が証明されたな? それにこれは俺達神武使いなら全員可能だ」

「俺達が普通で無い、事が分かったが……そもそも神武って何だよ。それにその治る理由も分からねぇ」

「そうだな、そこから話す事にするか。だが、その前に……ほれ」


 良い焼き色をした串肉を差し出され、俺はそれを受け取り口に運ぶ。

 1ヵ月振りの食事に思わず串肉を口に頬ぼる。

 直ぐに串肉が無くなると、師匠から串肉が差し出られた。


「あんがと……」

「弟子の世話も、師匠の務めだからな」


 今度話を聞くため、なるべく……! ゆっくり食べる、様にする。


「話すが良いか?」

「……頼む」

「まずは、水を渡しておこう」

「……あんがと」

「よし、なら話そう。神武とは何か、そしてなぜ俺の手が治ったのか。それは全て」


 師匠は手を伸ばした瞬間、少し大きめの鏡が出現した。


「神武に繋がる話だ」

「……それが師匠の」

「そう、神武ツクヨミだ。さて、そもそも神武とは何かだ」



 ――――――――――――――――――


 

 俺はここで一旦話を止める。


「え? 続きは?」

「……疲れたんだよ、バカ猫」

「ああ、なるほど」


 すると白夢が立ち上がる。


「どっか行くのか?」

「ん? 買い物、食べやすい物を買ってくるよ」

「金なら、一応持ってるぞ?」

「ニャハハハーいいよ。レイスは貴重な情報を話してくれてるからね」


 そういうと白夢は外に出て行った。



 ―――――――――――――――――



 私は外に出てから、直ぐに反応のあった方へ跳躍した。

 まさか、ここまで引っかかるバカがいるとは思わなかったけど。

 思いながら日が落ち、影が掛かる街を走る。

 走る事数分、数分ッていうけど私多分結構早い速度で数分だね。


 数分で反応のあった場所に行くと、賞金稼バウンティーハンターぎのグループが何かを探している。

 だが、私は奴らが何を探しているのか情報を掴んでいる。


「何かお探しかなー?」

「あ? 誰だ?」


 暗闇の中、私は声を掛けるが相手は私を見つけておらず、辺りを見渡している。


「持っても情報を持つ、情報屋です」

「白夢か! よし、白夢! ここら辺に邪神がいるって聞いてな! その情報を教えてくれ!」

「んー? 対価は?」

「金なら、邪神を捕まえた後にやる! それに邪神は弱っているらしいな! これはチャンスだ! だから売ってくれ!」

「ふーん。なら、対価を決めたよ」

「なんだ!」

「――お前らの命」

「は?」


 私は闇に紛れて賞金稼バウンティーハンターぎの1人の首を落とす。

 他の賞金稼バウンティーハンターぎ達は急いで武器を構える。


「遅いし、お前ら何かに売る訳ないでしょ」


 闇に紛れ、賞金稼バウンティーハンターぎ達の首を跳ねてから、月が出てきて見上げる。


「私より、邪神に会った方がマシって気づきなよ」


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