第13話 ただ本能のままに

 崖を上るが、どうしても中腹あたりで落とされてしまう。

 あの野郎、本気で鬼だな。

 人の努力を簡単に崩しやがる。

 改めて自分のガントレットを見つめる。


「……ガントレットが出せても力がな」


 そもそもどうやって力を出す?

 ガントレットと同じで自分自身の中にあるだけなのか?

 いや、そうだとしてもだ、まだ眠っていると言っていた。

 起こす必要があると……だが、その起こし方すら分からない。


「少しはヒントくらい寄こせよ……」


 既に日は落ち、辺りが暗くなっていく。

 俺は崖に背中を預けて少し休む。

 すると無意識に意識が刈り取られ、眠りに落ちた。

 落ちてからどの位経ったかは分からないが、夢の中だろうか。


 森の景色が目の前に映り、視線を無数に感じた。


「――!!」


 目を覚まし、戦闘態勢を素早く取る。

 草むらから姿を現す。

 ウルフが1匹。だが、視線を感じたのは……多かった。

 だから、コイツは1匹ではないと確信していた。


 ゆっくりとこちらに歩み寄ってくるウルフに足元にある石を投げつける。

 石を避け、少しだけ距離を離す。

 視線を外さぬ様にしながら石を取ろうと膝を曲げた。

 その瞬間、


「――ッ!! 背後!?」


 背後から突然ウルフが現れた。

 俺はガントレットでウルフに裏拳を直撃させる。

 だが、左足に鋭い痛みが走り、そちらに視線を向けるとウルフの鋭い牙が足に食い込んでいた。


「クソッ!」


 ガントレットで殴ろうとした瞬間、避けられ背後から肩を噛まれる。

 噛んできたウルフの頭を掴み、逃がさない様にしてから高くそびえる崖にぶつけた。

 ぶつけた瞬間噛まれた左足に噛みついてくるウルフ。

 噛みついてきたウルフを蹴り飛ばそうとしたが避けられる。


 そして背後から衝撃と共に態勢が崩れる。

 その瞬間、各方位からウルフの群れが現れ、飛び掛かってきた。

 態勢が崩れていて対応が遅れ、各部位を噛まれる。

 右足、左膝、右脇腹、右腕と噛まれるがガントレットで右腕に噛みついているウルフを殴り飛ばす。


 だが、背後から現れたウルフに背中を切られる。


「グゥッ!! くそがぁあああああああああああッ!!!!」


 体を振り払い、ウルフ達を振り払う。

 既に満身創痍状態で見えるだけで9匹のウルフ。

 ボタボタと血が地面に滴る。

 噛まれ過ぎて出血が酷い。


 数分もすれば意識も無くなり、倒れるだろう。

 そうなれば生きたままコイツらに食われる。

 そんなのは御免だ、俺はこんな所でくたばる訳にはいかない。

 足に力を入れて歯を噛みしめる。


「ハァ……ハァ……ふぅ……」


 それから息を整え、


「掛って来いよ……クソ犬ども」


 戦闘態勢を取る。すると、数匹が同時に攻めてくる。

 飛び掛かってきた3匹を見てから、回し蹴りを放つ。

 2匹は捉えたが、1匹だけ抜ける、が……どうしてかウルフの動きが遅く見える。

 肘をウルフへ振り下ろす。


 ウルフを捉え、地面に伏せさせる。

 何故ここまで遅く見えるのかは分からないが、現状を打破するのには最適だ。

 するとウルフ達が羽翼の様に広がり、正面から他のウルフよりも大きな個体が出てきた。

 こいつらのボスか……。


 俺は構えると、ウルフ達が一斉にかかってくる。

 それらを捌きつつ反撃を入れていたが、突如動きの速いウルフ。

 ボスウルフがウルフ達の陰から強襲。

 牙を見せながら飛びついてくる。


 その軌道は俺の喉元へ。

 総攻撃に流石にボスへの対応が間に合わず、俺は完全に攻撃を受けようとしていた。

 どうにか体を動けと思うが、現実はそうは許してくれない。

 その時、何も考えていなかった。


 ただ、本能だろうか。

 俺は右手の平を広げると、突如大剣が出現。

 ボスウルフは大剣にぶつかり、俺はボスウルフの頭を瞬時に切り落とした。

 それから周りのウルフ達へ横薙ぎをする。


 胴体と足が分かれて地面に崩れた。

 大剣を地面に差してから、地面に膝を着ける。


「……一体、何が……」


 何が起こったか自分でも理解していないが、突如疲労感に襲われる。

 酷い疲労感に耐えられず、俺は意識を失った。

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