第12話 力の使い方を知らなかった

 ベットの上で昔を語る。

 白夢は時折、リンゴと飲み水を持って来てくれる。

 俺は知りたがっている白夢へ過去を話す。

 

 ツクヨミに負けてからは師匠と呼ぶようになった。

 師匠の訓練は滅茶苦茶であった。

 崖を3日で登りきらねば、1からスタート。

 もちろん、高さ的には3日で登るのは不可能。


 だが、神武使いであればこれほどの事は朝飯前となる。

 半信半疑であったが、師匠は1日で登り切った。

 師匠曰く、俺はまだ力の使い方を理解していないらしい。

 そりゃそうだ、その時はまだ受け取った神武の名すら俺は知らなかった。


 訓練以前にそこの部分をどうにかするべきではないのか。

 そんな事を思うが、そうではないらしい。

 力を自身で使ってから、そこに行き着く。

 どうやら、まだ起きていないらしいので起こす必要がある。


 それから俺は何度も何度も落ちては登りを繰り返した。

 だが、俺はめげる事は無かった。

 当たり前だ、俺にはアイツを殺す、その復讐心があるから。

 しかし、3日で登るには到底叶う事の無い高さ。


 どうやって師匠は登ってきたのか、そこから考えた。

 神武の力を使ったんだろう、と思うが……。

 力なんてどうやって使えば良いのか、そこが問題だ。

 魔法と同じ感覚だろうか、俺は手を握った。


 ここで思い出す。

 なんで、本当に今まで気付かなかったんだろうか。

 左腕に装着されていたガントレットが消えていた。

 ガントレットが付いていると言うより、ガントレットが自身の腕だと錯覚するぐらい違和感が無かったのだ。


 見た目で分かるが、あの時直ぐに気絶したものなんで忘れていた。

 ガントレットが神武の力であるなら、引き出す。

 そこが出来れば力の一部を出す事が出来るんじゃないのか?

 そう思い、俺はどうやってガントレットを召喚するか色々試した。


 意識を自分自身に向けるが、魔力しか感じず。

 呪文かと思い、唱えるが召喚すら起きない。

 左腕に魔力を送っても効果なし、左腕に魔力を溜めても同じ。

 基本的な事を行っても何も起きない。


 そうなると、何処か絶対に見落としがある筈だ。

 俺は今までの事を思い出していく。

 契約をしてガントレットを装着した、けど俺自身は契約したつもりはない。

 そしていつの間にか消えていたガントレット。


 召喚しようとしても、反応が無い。

 やはり見落としているとしても、それらしいことが見当たらない。

 思うと草むらが音を立てて揺れ出す。

 俺は直ぐに起き上がり、戦闘態勢に入る。


『グゥウウウッ!!』

「熊か……丁度いいや、腹も減っていたしな」


 俺は魔法を発動しようとしたが、途中で魔法がキャンセルされた。

 意味が分からず、ほんの数秒停止した。


「クッ!」


 その数秒の内に熊が体当たりされ、腹部に直撃して後方へ飛ばされる。

 木に激突し、息が出来なくなり、体を動かす事すら難しくなった。

 そこにのしりのしりとこちらに近づいてくるであろう熊。

 俺はやっとの思いで熊を殴ろうと拳を放ったが、当たる事は無かった。


 熊は立ち上がり、その大きな爪を振り下ろす。

 流石に死んだと思う。

 後悔ばかりだ、まだ何もしてないし、やっとアイツを殺せる力を手に入れたと言うのに、全てが無駄になる。

 そんなのはまっぴらごめんだ。


 そう思い反射的に振り下ろされた爪に対して、腕で防ぐ。

 このまま腕に痛みが走って、追い打ちを掛けられて食われる。

 と思うが、いつまで経っても腕に痛みが走る事はない。

 むしろ何か当たった気がした。


 俺はゆっくりと目を開け、現状を確認すると、


「ガントレット……なんで?」


 いつの間にかガントレットが召喚され、装着されていた。

 熊は自分の爪が剥がれ、血を流しながらどこかへ消えた。

 俺はガントレットを握ったり、開いたりする。

 そのまま俺は崖に向かおうとして、もう一度ガントレットを見ると消えていた。


「は? 今まで着いていたし、何で消えたのに気が付かないんだよ」


 ここで気づいた。

 何故、消えた事が気が付かない、という事はそもそもコイツに重さを俺は感じた事があったのか。

 否、それは無かったのだ……むしろ重さなんか感じる事は無い。

 元々腕がガントレットだった様に、それくらい違和感がなかった。


 違和感が無い? 元々腕がガントレット……。

 俺は自身で思った事をもう一度考えてから、ただ腕がガントレットだと思いながら握る。


「……なるほどな」


 ガントレットが現れた。

 どうやら俺は召喚とか思っていたが、俺の腕がガントレットになっていたらしいな。

 代償か? まぁ、それでもアイツを殺す為なら安い物だ。

 思いつつも俺は崖に手を掛け登って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る