第11話 ただあの頃は

 カイルに飛ばされた後、俺はそこが何処か本当に分からなかった。

 体を起こし、今何処にいるのか確認しようと動かす。

 今体を動かさないと、仲間を殺すだけ殺した俺は正直心が折れそうになる。

 体を動かしてその事を少しでも忘れようとしていた。


 だが、俺の体は疲労困憊状態で動かす、と言っても直ぐに倒れてしまう。

 そんな時だろうか、俺の目の前に誰か立った。

 そいつは全身をローブで身を包み、ガントレットを持っていた。

 倒れた俺を見下ろし、


「コイツか……ああ、分かっている」


 何やら独り言が大きいと思った。

 すると、そいつは膝を曲げ、俺にガントレットを差し出している。

 何かと思い、そいつを見ると、


「選ばれたんだ、お前は」

「……」


 言っている意味が分からなかった。


「これがあれば、お前の持つ願い……必ず叶うはずだ」


 その言葉に俺は心を奪われた。

 俺の中に復讐心が強く、直ぐにガントレットを奪うように取る。

 その瞬間、ガントレットから眩い光が発した。

 光が収まると左腕に先ほどのガントレットが装着されていた。


 それだけで無く、先程までの疲労は何処に行ったのか。

 無理なく、体を動かしていた。


「……どういう事だ?」

「お前は神武使いに選ばれた、という事だ。俺もそうだがな」

「まて、神武使いって何だよ」

「神に認められた者、本気を出せば1人で数万の敵をなぎ倒す事の出来る」

「なら、これでアイツを……!!」


 殺す頃が出来る、そう思った瞬間だろうか。


「だが、同時に魂と肉体を蝕む」

「それでも構わない……! アイツを殺せるなら!!」


 何故か深いため息を付かれる。

 すると、俺に指を差す。


「お前じゃ、アイツには勝てない」

「あ? んだと? てか、俺が誰を殺すか言ってねぇだろ」

「分かるさ、カイル・グゥエン・オーヴェンだろう?」

「何で知っている」

「とある伝手でな。それにここに飛ばされたのも、奴……カイルの仕業だろう」


 俺は警戒心を最大まで高めながら、構える。


「テメェ……何者だ」

「そうだな、挨拶が遅れた」


 ローブを外すと紫ショートの青年、俺よりも歳が少し上ぐらいだろう。

 はっきり言えばやさおが姿を現して、丁寧に頭を下げて挨拶をする。


「ゴエティアと名乗っておこう、もしくはツクヨミ」

「……だから、なんだ」

「私も神武使いで、神武はツクヨミ。そしてこれから、君の師匠になる者でね」

「は? なんでテメェなんかにした――」

「――口を慎むと良い、負け犬」


 話していた筈がいつの間にか俺は地面に伏せていた。

 何をされたのか全く分からなかった。

 俺の背中と腕を取って拘束している青年を睨む。


「ほう、諦めないか」

「はな……せッ!!」

「おお、良いでしょう。そのままスパーリングとしましょう」


 拘束を解かれ、俺は青年と対峙する。


「どうしたのですか? 来ないのですか?」

「……」

「なら、こちらから行きましょう」


 一歩踏み込んだ瞬間、瞬時に懐に入られ腹部と顔に一発ずつ貰う。

 余りにも強力な攻撃に意識が飛びそうになる、が。

 歯を食いしばり、踏みとどまらせて見つめ直す。


「あの攻撃で気絶をしないとは……ふむ」


 言った瞬間だろうか、視界が突如変わる。

 そしてそのまま、体の自由が利かずに倒れようとしている事が分かる。

 遅れて肩頬に痛みが走り、視線を痛みのある方へ向けた。

 そこには青年が立っており、奴に攻撃されたと分かった。


「分かるかな? 私とまともに戦えない様では、カイルには勝てないよ」


 意識が薄れていく中、それだけははっきりと聞こえた。

 更に自覚をする、今の俺では足元にも及ばない事を。

 視界が暗転し、俺は意識を失った。

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