第8話 ただ狙われる者

 闇市を出てから俺と白夢は第8支部へ向かおうと動く。

 移動手段は3つ、徒歩、飛空船そして列車。

 だが、非常に残念で仕方がない事がある、それは、


「俺は犯罪者だから身元証明が無いから飛空船も列車も乗れん」

「たいふぇんだねぇー」


 テラスのあるカフェでホットドックを口に含ませながら話す白夢。

 因みに俺はコーヒーとサンドイッチのセット。

 何故、こう堂々としているのか、偽装魔法の御陰だ、何度も言うが。


「そうそう」

「なんだ?」

「何であの地下施設を潰してるの?」


 あのと言うのは支部の地下の事だろうな、周りを気にして言ったのだろう。

 てか、は? お前……。


「……お前、知ってるんじゃ?」

「いや? ただ、君が潰したぐらいしか」

「教える訳ねぇだろうが」

「……お願い、これは情報屋では無く。本当に私は知りたいの」

「……」


 真剣な白夢だが、俺はコーヒーに口を付けて目を逸らす。

 しかし視線が未だ感じ、視線を戻した。


「……お願い」

「……あれは存在してはいけない」

「あれって?」

「自分で調べろ、俺からはここまでだ」


 サンドイッチに手を付けようと手を伸ばすと、皿ごと取られる。

 俺は白夢を見ると、皿を俺から遠ざける様に持ちながら睨む。

 ため息を1つ付き、コーヒーに口を付ける。


「何故俺に聞く? お前なら直ぐに手に入るだろうが」

「まぁ、大抵の事なら直ぐね。そう、大抵の事なら」

「は? 何言ってんだ、あの地下施設の存在を知ってる癖に内容は知らないとかあるのか?」

「あるよ」

「なんで?」

「関係者がいないから」


 白夢の発言に俺は驚愕してコーヒーを置く。

 嘘だろ? と言うとしたが、白夢の表情を伺うと嘘では無いらしい。

 あの研究に関係者がいない? あり得ない、俺が行った時には誰かがいた後だった。

 それに経年劣化も起きてはいない。


「……ダメだ」

「なん――」

「――危険すぎる、もしこれが奴の関わっている事なら、猶更だ」

「……」


 何故か驚いている様に見える……それに口も少し空いてるし。

 なんか変な事でも言ったか?

 思うとニシシと悪い笑みを浮かべる白夢。


「心配してくれたんだ?」

「は?」

「だって『危険すぎる、もしこれが奴の関わっている事なら、猶更だ』って!」

「はぁ……死ねよこのバカ猫……」

「ニャハハハ、ごめんごめん。でも、ありがと」


 優しく微笑み白夢に俺はコーヒーを飲んでから、気を紛らわす。

 少なからず、俺の情報を持っていて、尚且つ白夢程の情報屋はそうそういない。

 いつの間にか、心配もするか……。

 思い俺は白夢に視線を向ける。


「んー! 美味しいー」

「……」

「あーん……んー! 美味ぃ~……ってどうし――あ」


 そこで気づく、俺のサンドイッチを頬張っていた事に。


「あー……ニャハハハー……そのぉー……」


 少し笑いながら頭を掻き、


「ごめーんねッニャハッ!」


 満面の笑みと同時に顔にピースをする白夢。


「キモ……」


 マジでドン引き。思わず、そんな行動を起こす女初めて見たわ……。

 焦り始める白夢。


「ご、ごめんってー! ゆるしてぇ~ニャンッ」

「……」

「こわッ! 私今まで見て来た中で一番怖いよ、その目!!」


 だと思う、俺多分この人生でここまで相手をゴミの様に見た事が無いからな。

 そんな事をしてから俺達はまず、第8支部へ向かうか話し合う。

 いや、実際の所は1人で行きたいんだけどな。


「乗れないってなると、確実なのは徒歩……なんだけど」

「……んだよ」

「遠いよ?」

「そんな事は知ってんだよ」

「今までどうやって?」

「貨物に紛れてた」

「うわぁ……犯罪者」

「誰に言ってんだ?」


 ニャハハハと笑う白夢。だが、何処かから視線を感じた。

 振り返る事なく、俺は立ち上がる。


「ん? どこに?」

「……気づいて無いのか?」

「今一瞬鋭い視線だったねぇ……」

「気付いてるじゃねぇか!」

「気付くよーあの視線だもん」

「だから、逃げねぇのか? って!」

「情報屋は基本中立ぅ~罰せられる事はない~~」


 余裕の態度を見せる白夢。

 確かに情報屋は基本中立職で、罰せられる事は無い。

 しかし、自らが情報を元に犯罪を起こすと罰せられる。

 殺して欲しい人物がいて、その情報を同じ気持ちを持つ者に売ってもいけない。


 そんな決まりがあるからこそ、基本コイツは狙われる事は無い。

 だが、それはあくまで聖騎士や賞金稼バウンティーハンターぎであり、暗殺者からは狙われる事が多い。

 白夢程になると四六時中辺りを警戒しなくてはならないらしんだが……。

 のんきにジュースを飲みながら新聞に目を通している白夢。


 いや、絶対コイツ殺されるだろ。

 そんな事を思っていると、


「心配してくれるのは嬉しいけど、まずは自分の身をどうにかしてね……〝レイス〟」


 いつものお茶らけた白夢ではなく、真剣な表情とトーンで言われる。

 少しだけ空気が変わった瞬間、俺はその場から離れる。

 俺は裏通りに入り、辺りを警戒すると気配を感じた。

 ついてきていると確認後、辺りに人の気配が無いことを確認し、


「出て来いよ、着いてきてんのは分かってんだ」


 言ってから数秒後、1人の男性が姿を現す。

 見慣れぬ姿に思い当たる節があり、


「キネティクス国の奴が何でこんな所にいる?」


 キネティクス、ミナヅチから遠く離れた国で魔法を行使する国のミナヅチとは違い、機械を行使する国だ。

 そもそも魔法はあくまで魔法石があり、魔法石を使う事で魔法を発動する事が出来る。

 しかし、魔法石は採掘して見つけるしかなく、資源不足も時間の問題でもある中、キネティクスは機械を用いて魔法石を一切必要としない国。

 ある意味対立している国でもある、が未だ戦争は起きていない。


 どうやら、上層部が上手いこと交渉しているらしいので。

 因みに、飛空船と列車はキネティクスの技術が一部使われている。

 まぁ、一応仲のいい国とはなっている。


「……レイス・オブ・ハーデス」

「……誰だ、テメェ」

「知らんか?」

「顔が見えないんでな、判断も出来ない」

「そうか」


 一言言うと、完全に姿を現す。

 その存在に思わず驚愕して目を見開く。


「おいおい……マジかよ……」

「分かる様だな」

「キネティクス軍、特殊部隊部隊長、オルキス・アウルクルスト」

「知っているとは光栄だな」

「うっせぇよ……!」


 キネティクス軍特殊部隊部隊長、オルキス・アウルクルスト。

 キネティクス軍の中でも最強の一角の一人であり、その実力はミナヅチでシンと同格と呼ばれている。

 因みにシンとカイルの場合、カイルの方が上である。

 強敵を相手にしたくはない……どうにか逃げたいものだ。


「既に逃げ道は塞いだ」

「……クソが」


 逃げ道を潰されたとなると、コイツを対処せねばならない。

 そう思いオルキスと向き合う。


「大人しく捕まってくれ」

「お願いか?」

「ああ、お願いだな」

「……断るなら?」

「……実力行使させて貰おう」

「上等だ……!」


 俺はガントレットと大剣を出現させた。

 すると、ため息を1つ付かれ、


「出来れば、戦闘は避けたかったんだがな」


 言った瞬間だろうか、空から何かが落ちてくると砂ぼこりを舞い上げる。

 そして何かの起動音と共に、機械の軋む音が聞こえると砂ぼこりの中から光が照らされる。

 砂ぼこりが一瞬で晴れると3m程の巨体となって見下ろされる。


「機神オルキスの異名はこういう事か……」

『再度忠告させて貰う。大人しく捕まれ、レイス・オブ・ハーデス』

「……悪いな、俺はこんな所で捕まる訳にはいかねぇんだ……! アイツをぶっ殺すまではなッ!!」

『実力行使させて貰うッ!!』


 3m程の巨体が拳を振り上げて突っ込んできたのであった。

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