第7話 ただ目的の為に

 俺は真夜中、白夢を置いて宿屋を出る。

 宿屋を出て、闇市から地上に出るルートへ向かう。

 到着し、階段を上がっていくと、人の気配を感じて警戒を強くする。

 階段をゆっくり上がりながら周囲へ警戒を研ぎ澄ますと、ランタンを持った者が現れた。


「……お前かよ、バカ猫」

「ざんねーんでした、後バカ猫じゃないですぅ」

「うっせぇ、てかお前、俺から離れる約束だろうが」

「さてはて? そんな約束したかにゃー?」

「……クソが」


 言っても無駄だと察してから、深いため息を1つ。

 それから白夢の横を抜け、階段を上がる。

 そこでーーに話を掛けられた。


『おはよ』


 突然起きた――に思わず驚愕して、足を止めてしまう。

 急に足を止めたせいか、白夢が俺の背中にぶつかる。


「どうしたの?」

「……いや、何でもない」

「そう? なら、行こう行こうー!」

「ああ……」


 話を終え、俺よりも先に歩き出す白夢を横眼にしてから、俺は――に意識を向ける。


『大分寝てたな』

『ああ、すまない。で、状況は?』

『あれから進展は無い』


 あれから、と言うのは第10支部を壊滅させた事だ。

 それからコイツは力の酷使をした為、寝ていた。

 コイツの力あってこその、支部の壊滅だからな。


『まぁ、俺は力を貸しているだけで、お前自身の力でもあるからな。だが、レイス……力を貸している身だが……力の開放を行使するなよ?』

『分かってる』

『なら、良いさ。で、相変わらずこの情報屋はお前に引っ付いているのか』

『流石に折れて、カイルの事を少し話した』

『ほう? 邪神様も折れるんだな』

『うっせえ』


 ――と話していると、目の前で立ち止まる白夢を見てから足を止める。

 何かと思い、近づくと、


「……いる」

「――ッ」


 その一言で何故足を止めるのか理解する。

 確かに地上の出口は1つ。待ち伏せする可能性があるのは間違いない。

 だが、少なからず俺がここにいる事は知らない筈だ。

 もし、ここにいると言う事がバレているのなら、相手に俺の変装を見破る者がいた、と言うだけ。


 多分、出口にも何らかの仕掛けがしてある筈。

 迷彩魔法をしても、出口を出た瞬間迷彩が消える解除魔法と拘束魔法が掛けられているかも知れない。

 ここで力の開放を使う、そんな選択はあり得ない……さて、どうした物か……。

 悩んでいると、


「私が先に出るよ」

「……囮か?」

「ふふん、そんな所」


 自信満々に言うので俺は任せようと思い、頷くと白夢は階段を駆け上がった。

 駆け上がると、


「ギャーーーーーーーーーッ!!!!」


 断末魔が聞こえると同時に、多くの者の声が聞こえる。

 多分、白夢を取り押さえているのだろう。

 そう思い、俺は一気に駆け上がり、直ぐに目的の人物では無いと狼狽ろうばいしている者達の真上を通る作戦に出た。

 だが、


「――ッ!?」


 そこには誰もおらず、むしろ俺の周りを囲む様に賞金稼バウンティーハンターぎが待機していた。

 その中には賞金稼バウンティーハンターぎとして名が高い者までいる。

 俺は左腕に籠手を出現させ、大剣を右手に持ち、戦闘態勢を取る。


「ふむ、邪神……レイス・オブ・ハーデスだな?」

「人違いです」

「そうか、顔は……似てはいないが、容姿や持っている物が一致している」

「たまたまです」

「なら、何故武器を取る?」

「お前らが凄い殺気を放つから、だッ!!」


 話していると、突如背後に気配を感じて裏拳を放つ。

 裏拳が当たり、建物に激突して砂ぼこりが舞う。


「非常識だな、人が話をしている最中なのに」


 その後、剣を賞金稼バウンティーハンターぎ達に向ける。


「お前らも同罪だ……覚悟は出来るんだろうな?」


 俺は殺気を放つと近くにいたであろう鳥達が、騒々しく鳴きながら羽ばたいて離れる。

 殺気に当てられ、足が竦んでいる者達は動こうとはせず、3名が1歩前に出てきた。



「流石は、SSS級犯罪者だ」

「SSS級犯罪者なんて、世界にお前しかいないんだぜ?」

「それだけに賞金もデカい」


 前に出てきたのは名のある賞金稼バウンティーハンターぎであった。

 流石にお前らは経験値が違う、と言うのが分かる。

 それから武器を構えると、1人の賞金稼バウンティーハンターぎが銃を素早く構えて発砲。

 上半身目掛けて飛んでくる弾丸に大剣で防ぐ。


 防いだ瞬間、刃の着いた鞭が横から迫る。

 俺は勢いよく大剣を地面に突き刺して、そのまま体を腕一本で持ち上げて避けた。

 着地と同時に、刀を構えて突っ込んで着た者に、大剣を盾として構えた。

 その瞬間、片足を鞭で絡めとられて態勢が崩れる。


 一瞬で殺気を感じた俺は大剣を消し、普通の者と相手するなら神速の抜刀術。

 しかし、俺の目に映る景色は、ただ少し遅い抜刀術の景色。

 俺は大剣を再度出現させて、盾として防ぐが想像以上の威力に後方へ飛ばされた。

 建物に激突して砂ぼこりが舞う、いや……ホント、止めろよこの砂ぼこり目に入ると痛いんだよ。


「やったか!?」

「……いや……手応えが違う……」


 などと、少し浮かれているので大剣を横に振ると、砂ぼこりが一瞬で消える。

 俺の姿を見て驚愕する3人。



「化け物が……!」

「さて、こっちの番だな?」


 俺は強く地面を踏み込むと、自分のいた場所が吹き飛び、一瞬で刀を持った相手の間合いに入り、腹部に一撃。

 次に鞭を持った者に近づき、同じ様に腹部に一撃。

 その瞬間、発砲してい来るのでその場から動かず、飛んできている弾丸を掴む。

 地面に落とすと、むきになったのか、5発を早撃ちする。


 俺は同じように全て掴み、地面に4つだけ落として最後の弾丸を親指で弾き、相手の額に当てた。

 数分の出来事を目の前にした他の賞金稼バウンティーハンターぎ達は、恐れたのか蜘蛛の子を散らす様に何処かへ消えた。

 辺りに誰も居ないと気配で確認した俺は倒した3人に近づき、生きているか確認する。


「……無事か」


 全員生きていると確認してからその場から立ち去ると、曲がり角から白夢が現れた。

 流石に売られたので、本気で殺気を放つ。


「ぉお……怖いね……」

「――ッ!?」


 殺気を放った瞬間だろうか、白夢の驚異的な速度に一瞬判断が遅れ、懐に入れていまう。

 懐に入った瞬間、白夢からの上段蹴りが俺の顔に放たれる。

 だが、蹴りは寸前の所で止まった。


「……どういうつもりだ?」

「おぉーごめんね。つい反射何だ、特に私はよく狙われる事があるからねー」


 ゆっくりと足を下す白夢。

 見事な蹴りを目にした俺は気になり、


「武術か」

「そうそうー! 一応、それの達人」

「……あっさり答えたなお前」

「ん? だってこれ位はバレても困らないからね」


 ニャハハハと笑う白夢に重いため息を1つ。


「お前、俺の事――」

「――売った」

「2度とつい――」

「――けど、拘束も外したし、アイツらを下がらせたよ、私は」

「……」

「……ニャハ」


 笑うなこのバカが……だが、コイツの御陰もある……仕方ねぇ……。


「勝手にしろ、バカ猫」

「ニャッホゥ! 好きにするぅー」

「けど、次俺の事売ったら、ぶっ飛ばすぞ!!」

「情報は売るよ私は。だって、情報屋だもん」

「今すぐ消えろ」

「えぇー!! さっきと言っている事違う!!」

「うッせぇッ!!」

「ああー!! 待てぇええええええええッ!!!!」


 白夢から逃げながら地上へ出たのであった。

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