第6話 ただ真実を知る者と……

「――とまぁ、こんな感じだ」

「……」


 過去の話を伝えるが、真剣な表情を浮かべ、何故か黙り込んでいる白夢はくむ

 すると、真剣な顔付きのまま、こちらを見て、


「この、情報は大きすぎる」

「で?」

「予想以上の情報に私の払う情報では、割に合わない」

「構わねぇよ、お前が離れるならな。てか、疑わないのか?」

「疑う? 今の話を?」

「ああ、仮にも俺は世界でもっとも恐れられているSSS級犯罪者だぞ?」


 誤植を一切してはいないが、そこまであっさり信じるものなのかと思いつつ、白夢へ問う。

 すると、白夢は微笑む。


「その発言が出てくる時点で信頼に値する。それに、近衛団長カイルの情報を掴めないのさ……経歴までは調べる事は出来る。けど、奴のやってきた仕事、功績が調べても出てこない」

「ほう?」

「そんな一切情報の洩れない奴の情報を持っている者は希少中の希少。これで信頼できる情報だよ、たとえ嘘を付いても絶対に綻びが出る。でも、レイスの話には一切綻びがない」

「どうやって綻びを見つけるんだ?」

「お、気になる?」


 尻尾を左右に振りながら言う白夢。

 面倒くさいスイッチを入れてしまった気がすると、思いつつも気になるので。


「気になるな」

「そうかそうかー! と、言っても簡単でね。私の持つ情報があれば簡単なのさ」

「お前にしか出来ないって事か?」

「そうなるね、むしろ情報屋ならある程度出来るんじゃないかな?」

「やり口は?」

「そいつの経歴だね」

「はぁ?」


 思わず言葉が零れる。

 すると白夢は自信満々の笑みを浮かべながらフフンと鼻で笑う。


「そうだね……そいつが嘘の話をするとしよう、そしたらそいつの経歴を調べるのさ。そうすればそいつがその場所にいたか、どうかの判断が付く。もし、内密に接触するとしても、経歴は残る何らかの形で。てか、内密の情報を私達に売る時点で間違いなく、殺されるだろうからだいたい嘘だけどね」

「……そうなると、あのクソ野郎……カイルの奴の経歴が残るんじゃないのか?」

「その筈、なんだけど……何故か、経歴が無い。飛空船も魔列車まれっしゃも、魔鉱車まこうしゃ、馬も使った経歴が無い」

「裏で消してるんじゃないのか?」

「だと、思って全会社を徹底的に調べたけど、無し。だから奴がどうやって移動しているのかすら、分からない。ただ、共通している情報は未だ、カイルがどこに居るのか、近衛だから王の近くだろうとは言われているけど、臣下や近衛騎士達は目撃証言もない」

「マジで行方不明なのな」


 無意識に拳を握っているのに気づき、緩める。

 白夢に視線を戻す。


「それに騎士団総団長を殺したと言うのも大きすぎる。知ってはいると思うけど――」

「――分かってる」


 世間では騎士団総団長は持病で死んだと公表されている。

 殺されたと知れば、騒ぎになるからな。

 そして俺の存在は特に秘匿、一部の階級のみしか俺の名前を知る者はいない。

 それに総団長亡き後、息子のシンが混乱した騎士団をまとめ上げたと聞く。 


「……シン」

「ああ、士官学校時代の好敵手で有り、親友の彼ね」

「……元、親友だ」


既に敵同士の元親友の事を思うが、現実は諦めるしか無いと選択をする。


 ―――――――――――――――



 聖騎士団本部、第1騎士団副団長室。

 1人の女性が部屋に入ろうと、扉の前に立つ。

 だが、身だしなみが崩れていないか後ろの窓に映る自分を確認して、


「よし」


 咳払いを1つしてから、ノックを行う。


「入れ」

「ハッ!」


 扉を開けると、机に乗せられた書類に目を通している男性。

 シン・レーヴェ・アインが眼鏡を掛けている


「クリス・シュリナ・ツヴァイ中尉です」

「どうした?」

「報告書を持ってきました」

「そうか、そこに置いておいてくれ」

「はい」


 机に数枚報告書を置いてから、シンの凛々しい顔に見とれる。

 すると、こちらに気づいたシン。


「どうした?」

「あ、いえ! な、なんでも!!」

「……ああ、なるほど? 少し休憩しようか中尉」

「し、しかし、まだお仕事が……」

「根を詰めては進める物も進まないさ」

「……すみません」

「謝る必要はない、むしろいいタイミングと言う奴だ。何が飲みたい?」


 シンが食器棚に向かい、茶葉をクリスへ見せると、


「私が淹れます!」

「ん? そうか?」

「はい!!」

「なら、頼む」


 クリスへ交代してシンはソファーに座る。

 引き継いだクリスはシンの好きな茶葉を選び、準備をしていく。

 カップにお湯を注ぎ、テーブルに運び蓋をして保温。

 その間にポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。


 因みにお湯は魔鉱石を発熱させて温める機器で注ぐ。

 それと熱湯になる前に、お湯をポットに入れて蒸らす。

 テーブルへ持っていき、蓋を取りカップの中に入っているお湯を容器に入れる。

 そして、カップに紅茶を注ぐ。


「どうぞ」

「ありがとう」


 一口、口を付けると、


「やはり、美味しいな。私がやっても中尉の様に美味しくはならない」

「少佐が作法を習えば、直ぐですよ」

「そうか、作法か……こう見えて忙しくてね」

「――ッ!! も、申し訳ありませんッ!! そういうつもりで発言した訳では無いのです!!」

「分かっているさ、少しからかっただけだクリス」


 呼び名を変えた瞬間、クリスは察して片頬を膨らませる。


「シン兄さんはイジワルです……!」

「すまない」


 優しく微笑むシンに何も言えなくなるクリス。

 はぁ……と1つため息をしてから、


「シン兄さん」

「ん? どうした?」

「1年前の東部戦線で見事な指揮で数で不利な部隊を勝利へ導き、敵大将と敵兵を1人でなぎ倒す実力、どこでその力を?」

「なんだ? 俺の自己紹介か?」

「茶化すのは止してください! 明らかに人知を超えています!」


 シンはカップを置き、何処からともなく武器を取り出した。

 その武器は棒状の上下に大きめの刃が付けられた物。

 突如現れたそれに思わず息を飲む。


「……神武じんぶだよ」

「……単騎で大部隊を簡単に開いてする事の出来る伝説の武器、ですね」

「ああ」

「……しかし、代償は所有者の魂と言う、呪われた武器」

「正解」

「力には、納得しました、が……」


 まだ何か引っかかるクリス。踏み込んではいけないと分かっているが、


「レイス・オブ・ハーデスにこれ以上関わるのは、お止め下さい」

「……何故?」

「ご自身の立場をお忘れですか? 貴方は先の戦争で最も功績を上げ、尚且つ敵兵……5000人を相手に単騎で勝利し敵大将を討ち取る。それに挟撃された味方騎士達を加勢後、撤退するまで1人として通す事は無かった。そんな英雄が……SSS級犯罪者に固執しすぎです!」

「クリス、お前は――」

「――忘れてはいません!! 貴方の御父上、そして……私の父になるお方が、あの残虐非道の裏切者に殺された事を!! しかし、これ以上貴方が単騎で行動すれば、地位も名誉も全て剥奪です!」

「……クリス、時間だ」


 シンは時計を見てからクリスに伝えるが、クリスは食い下がる。


「シン兄さんッ!! おね――」

「――中尉、時間だと言っている」

「……ッ!! ……招致、しました……では、私は自分の業務に戻ります……」


 立ち上がり、部屋から出ていくクリス。

 部屋から出たクリスへ1人の騎士が柱の陰から現れる。


「諜報部の方ですか?」

「はい」

「と、いう事は」

「見つけました」

「この事は内密に、アイン少佐に感ずかれずに行うように」

「了解しました」


 柱の陰に消えると同時に気配も消える。

 そしてクリスの目に憎しみと怒りの炎が宿った。

 クリスは飛空場に向かう中、周りが見えておらず、他の騎士達が怯える。

 人を殺せそうな鋭い視線のまま、飛空船に乗り込んだ。


「お前のせいだ……レイス・オブ・ハーデス……ッ!!」


 飛空船の中で呟くクリスであった。


 

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