第5話 元凶は目の前

 大雨の中森を走り、背後を確認する。

 追っては居ないと判断して近くの木の下で雨宿り。

 雨の滴る音が辺りを響かせる中、俺はもはや生きる気力を失いかけていた。

 どうして俺が生きている……?


 未だしっかりと言う事聞かぬ体に憎悪すら感じる。

 そんな中、何人かの足音と鎧の軋む音が聞こえると、体が勝手に反応した。

 さっきは声を出せた、俺は声を出して近づけさせない様に動く。


「来るなッ!!」

「居たぞ!!」

「こっちだ!!」


 この時何故、気づかなかったのか……俺は今追われる身で会ったことを。

 むしろ引き付けてしまったのだ。

 ちょっと考えれば分かるものを気づけなかった自分が憎たらしい。

 そして姿を現したのは聖騎士の中でも精鋭の重装騎士が3名。


 ハルバートを持ち、対峙する。

 だが、俺の体は重装騎士に突っ込む。

 やっと死ねる……相手は重装騎士、間違いなく死ねる。

 そんな思いを抱いたが、現実はそう簡単に許してはくれなかった。


 重装騎士はハルバートで突き刺そうとしたが、ハルバートの上に乗り首元の鎧の隙間に剣を突き刺した。


「ァガ……」


 膝を着き、苦しそうにしている重装騎士のハルバートを奪い、重装騎士に思いっきり横に振るう。

 直撃した重装騎士は吹き飛び、木に激突した所にハルバートを投げ突き刺した。


「ッゴォ……アアアアアアア!!!!」


 柄へ飛び蹴りをして、更に深く突き刺す。

 盾を構えた瞬間、突っ込むと剣を振り下ろされた。

 その瞬間、スライディングで股下を抜けて、抜けた際に両足を掴んで倒す。

 倒した瞬間、頭跳ね起きをして高く後ろへ跳躍して、剣先を下で倒れている重装騎士に向ける。


 そして、起き上がろうとしていた胴に剣が貫き、地面に伏せさせた。


「グゥアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 重装騎士はこちらを見てから、


「このッ……!! 裏切者ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 叫んだ瞬間、剣を少し引き抜き、角度を変えて捻りながら突き刺した。


「ゴッ……」


 ヘルムの下から血が地面に流れ、俺は立ち上がり雨雲を見上げた。


「……ぉれが、な、にをした、ん、だ……よ」


 もはや心が壊れかけ寸前、


「ブラボーブラボー」


 拍手をしながら木の陰から姿を現す。

 姿を現したのは近衛団長。


「逃げてくれ!! 今の俺は!! 俺の体は言う事が聞かない!!」

「ふむ、なるほど?」

「頼む!! 逃げて、くれ……ッ!!」


 剣を構え、近衛団長にまで振るう。

 耐えられず、目を瞑る……だが、いつまで経っても手応えが無く、目を開ける。

 剣は見事近衛団長には当たらず、横にズレた。

 だが、ここで思い出した。


 なぜ、目を瞑れた……? 今まではそんな事出来なかったのに……。

 と思っていると、近衛団長がゆっくりと近づいてくる。

 そして俺の耳元で囁く。


「ふぅむ? 動かないと言うのは、もしかしてぇ……こんな風にかい?」


 右手を上げると、俺の右腕が同時に上がる。

 指を動かすと反応して体が勝手に動き出す。


「……なんで」

「んーいい出来だァ!! 我ながら、天ッ才ッ!!」

「……アンタが俺を……?」


 フフフフと笑う近衛団長、カイルに沸々と怒りが湧き上がる。

 歪んだ笑みを浮かべ、俺を見てから、


「そぅだよぉ?? 俺だよぉ??」


 心底嬉しそうに言うカイルに憎悪を抱く。


「フフフフ!! あー!! 楽しい!!」

「俺が……何をしたんだよ!!!!」

「いや? 別に? ただ、たまたまそこに居ただけだから、お前を使っただけ」

「そん、な……理由で……?」

「ああ――あ! そうそう、団長殺したのは、俺ね」


 まさかの発言に耳を疑い、驚愕しながらカイルを見る。


「なんで? って顔だね、良いよ答えてやるよ。アイツはな、気づいたんだよねー……計画に」

「計、画……?」

「ああ、流石だよな。総団長様は、1つの書類に目を通してから、自力で調べ上げて、気づいたんだから」

「……何を言って――」

「――だから、殺した。丁度、お前の事操れる準備も出来たしな」


 そう言ってカイルは右手を握ったり開いたりした。

 ここで思い出す、握手をした時の手に。

 そして、俺は涙を流し歯を食いしばりながらカイルを心の底から睨む。


「俺の……!! 手で殺した……訳では無く……! お前が、殺したのか……」

「ああ! そうだよ! いやぁ……勝てない相手に挑む、あの姿……まさに、滑稽……いや、愚の骨頂か? ハハハハ――」

「――テメェかァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 動かぬ体に今持てる力を出し、あのクソ野郎を殺す。

 そんな態度を見たカイルは恍惚な笑みを浮かべ、


「アァッ!! イイッ!! 殺してぇ……! 殺してぇよぉ……!!」

「カイルゥウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!!!!!!!」


 俺を見ていたが、そんなの関係なく叫ぶ。

 だが、カイルは俺に近づき、


「その憎しみ、忘れるなぁ?? 待っててやるよ……だから……ッ!!!!」


 腹部に鋭い一撃を貰い、俺は息ができなくなり意識が薄れていく。

 地面にうつ伏せて、雨に打たれる。


「強くなれ……! フヒャ……ヒャハハハ……ハハハハハーッ!!!!」


 突如浮遊感に襲われた時には意識は殆んど無く、目を覚ました所は見慣れぬ森の中にいた。

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