第3話 ただ少しだけ、過去を話そうかと

 そもそもこのバカ猫、元より白夢はくむがどうして、このSSS級犯罪者である俺に付きまとうのか、どうやら俺の犯罪者としてのなり方が異常らしいのだ。

 まぁ、最初に会ったときは賞金稼バウンティーハンターぎかと、思い倒そうとした所で情報屋と言われ、胡散臭かったが俺しか知らない情報。

 第10支部の地下研究所を知っていた事で信用するに値した。

 俺は目をキラキラ輝かせている白夢はくむを見てから呆れる。


「何かあったの?」

「あぁ、バカな女に付きまとわれてな」

「そうか、私には関係ないね」

「あ、そ……まぁ、話すか……で、何が知りたい?」

「最初! 君が何故、SSS級犯罪者になったのか!!」

「そんなのは知らんけどな……まぁ、俺のあったことを少し話してやるよ」

「やったー!!」


 余程嬉しいのか、ベットの上で跳ねながら喜ぶ白夢はくむ

 ため息を1つ付いて、


「これを聞いたら今後、俺に関わるな」

「そうだねぇ……興味がこれで無くなれば、だね!」

「ハァ……心底願うわ……」

「うんうん、だから早くッ」

「……あの日は――」


 あの日……と言っても3年前だ。

 俺は聖騎士になり、初任務をこなしていた。

 これで俺も憧れの聖騎士で悪党共を捕まえて、バンバン名を上げて上に行ってもっともっといい世界にしていこう、と思っていたんだ。

 けど、現実は違った。


 俺の配属された所は、悪党の住処の徹底調査。

 それならまだ良い、違うこれは肩書だ。

 悪党何て居ないんだ、この村には……。

 何が居たって? 無実な人のみだ。


 無実な人のみがいるこの村に、何故悪党の住処の徹底調査なのか。

 ただ、悪党を輩出しただけで、危険視扱いを行い、少しでも素行が悪ければその場で刑を執行する。

 いわゆる後始末の仕事。無論、村は壊滅した。

 その行いに俺は、俺の目指した正義とは何なのか……それが分からなくなった。


 俺の求めた正義ではない、これはただの虐殺だ、と。

 そんな事を上司である部隊長に言えば、どうなるか何て分かる事だ。

 剣を振るわれ殺され掛けたが、親友であるシン・レーヴェ・アインが止めに入った。

 「それ以上の素行を行うのならアイン家である私と、父に報告します」と。


 悔しそうな表情を浮かべていたのは今でも覚えてる。

 それから俺は命令無視と言う事で謹慎処分を受けた。

 俺は悩んだ、こんなのは俺の望んだ正義では無いと。

 部屋で退団届を俺は描き、その日たまたま騎士寮に来ていたレイの父親、ガルト・クルス・アインのいる部屋に赴いた。


 ガルトさんには良くして貰っていた。俺の父親代わりみたいな人で、信頼もしている。

 そして、騎士にさせて貰った恩人でもある……そんな人に俺は退団届を出そうとしてた。

 部屋の前で悩んでいると、扉が開かれた。


「なんだ、レイスじゃないか」

「ガルト、さん……」

「お前は確か謹慎中だったよな?」

「……はい」

「……フゥム、なるほど。まあ、悪いと分かっているがそれでも、私に会いに来た、という事は何かあったんだろうな」

「……」


 敵わないな……って正直思う。

 ただ、黙り込んでいる俺の真意を見抜いたんだから。


「入りなさい、ゆっくり話そう」

「……失礼します」


 部屋へ入り、1人用のソファーへ案内され座る。

 すると、ガルトさんは暖かいコーヒーを入れたカップを直ぐに出してくれた。

 俺の対面に座り、一口コーヒーを飲むガルトさん。

 しかし、表情が変わり、下を出す。


「うぅむ……どうも、この苦みが苦手でな」

「……砂糖を入れればいいのでは?」

「うむ、入れるとしよう」


 砂糖の入った容器の蓋を開けて、砂糖を入れていく。


「で、私に話とは何かな?」


 ある程度砂糖を入れてコーヒーに口を付けるガルトさん。

 俺は退団届をテーブルに置く。

 ガルトさんは退団届を手に取り開くと、


「……そうか」

「すみません……」

「ん? 何を言う? レイスが自分自身で決めたんだろう?」

「でも……俺は、貴方の御陰で、騎士に……」

「レイス、自惚れるな。騎士になったのは、お前の力だ。私は君の背中を押しただけだ、テストも実技も私は何もしてはいない。だから、誇りを持て!」

「ありがとうございます……」


 フフフと笑うガルトさんに俺はコーヒーを一口頂く。


「ッ! これ、かなり苦くないですか!?」

「ああ、苦くて驚いた。ハッハッハッハ!」

「ハッハッハッハッハって……でも、ありがとうございます」


 いつの間にか励まされてもいたんだな、と思う。

 俺の反応を見てからか、優しく微笑むガルトさん。


「ああ! でも、残念だ……お前ほどの騎士はそうそう居ないからな」

「シンがいるじゃないですか」

「シンと対等なのはレイス、お前だけだ」

「アイツはもう少し我を抑えれば、もっと上に行きますよ」

「あぁ……そうだな。我を抑えれば、な……」


 窓から見える夜空を見てから俺に視線を向ける。


「さて、謹慎者はそろそろ戻った方が良い」

「はい……!」


 一礼してから微笑み、立ち上がる。

 すると、肩に手を置かれた。


「また、会おう」

「はい、いずれ何処かで」


 部屋を出て自室へ戻ろうとした。


 だが、これがガルトさんと最後の別れになるとは、


 この時俺は分かる筈も無かった。

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