戦果

 目が覚めると仄暗い白い光が視界を染めた。

 見慣れた光、pcモニターの光だ。


 ここ最近寝て起きると毎回この光景を見ている気がする。

 照明がついてないためpc画面の光が照明の代わりに部屋の中とゲーミングチェアにだらしなく座った俺の体を照らしている。


 どうやら寝落ちしたらしい。


無理な体勢で寝ていたため少し体が痛い。

体を伸ばすとパキパキと小気味良い音が鳴った。

 机の上の携帯を手に取り、discordを開く。

 仕事仲間からの「起きろ」というメッセージが画面を埋め尽くすほどの量表示される。

 俺はそれを見て薄く笑い、いつも愛用している定型文を送る。


 あなた「ごめん、寝とった」


 時間は午前9時。


 既読はつかない。

 しかしそれは当たり前なのだ。

 今は午前9時だからだ。


 俺の仕事上、一度集中しだしたら止まらない連中が多いので大体一般人感覚で言う朝6時は未だ寝ずに起きていることが多い。


 生活パターン的には、正午に起床して午前5時就寝といったところだろうか。

 だから午前6時から正午までの6時間が俺たちの就寝のゴールデンタイムと言える。

 一般人換算すると、午前9時というのは午前2時くらいなので、間違いなく深夜だ。


 誰も起きていないと判断し、癖でtwitterを開く。

 そしてトレンドを見て、驚いた。

 一昨日の交流戦の件がトレンドに載っていたからだ。

さらに、通知は切っているため睡眠を阻害されることは無かったが、もし付けていれば俺は通知音で起こされていたであろう量の通知とdmが届いていた。


「え?…でも、まあそっか」


 納得し人知れず呟く。

 あの試合は自分でもいい立ち回りができたと思うし、他のメンバーも正確な情報を伝えてくれたから快勝を収めることができた。

 しかしがトレンドに載ったことなんてあっただろうか。

 ということは試合後の俺のツイートのリプ欄も荒れてそうだなあと思って

 プロフ画面を開く。


「ッッッ!」


 驚きのあまり声が出ない。

 いいね数とリツイート共に万を超えていた。

 1人興奮気味に呟く。


「なんだこれ」


 そのまま食い入るように画面を睥睨する。

 しかし勘違いでも加工画像画面でもない。

 リプを見てみると、俺宛に応援コメントが大量に来ていた。

 スクロールしてざっと見ると交流戦相手からも応援コメントが来ていた。


 俺は感極まって、机に伏せる。


 子供の頃の俺は自分を必要としてくれる人はこの世に1人もいないと思っていた。

 しかし今俺はこうしていろいろな人から応援されて、期待されている。

 少し目尻に浮かんだ涙を払って、携帯で時間を確認した。

 やる気は十分、体調も良好。


「よっっし練習するか!…あれ?」


 そこで気付いた。


 一昨日の土曜に交流戦があった。

 金曜日はが終わってすぐに飛行機に乗ってアメリカに行ったのを覚えている。

 昨日は日曜日。

 今日は…


「月曜日…」


 その瞬間家の受話器がピリリリリと鳴った。

 俺は恐る恐る受話器を手に取る。


「もしもしー。どちら様でしょうかー?」


「私だ。おはよう牧瀬君。今日は登校日なのになぜこの時間帯に電話に出られるのかなあ?」


「あっはっはすみません監督。今日体調悪いから休もうと思ってたんですよー」


「事前連絡なしでの証拠のない欠席は契約違反だ。つまらないことを抜かすようなら、ぞ」


「はいすみません起きたらこんな時間でした今すぐ着替えて登校します!」


「よろしい。2限目の授業には参加するように。あ、それと、今日から新メンバーが…」


「急いでるんで、用があるならデータ資料で送ってください授業中に見ときますんで」


「あ、こら、授業はまじめに受け―—」


 電話を切って、制服に着替え、バッグを手に取り家を出る。

 今は9時半。

 今から急げば10時スタートの二限目にワンチャン間に合う。


 走って最寄りの駅まで走り、定期券を通して改札をくぐり、停車していた電車に乗り込む。


 何とか間に合った。


 この電車に間に合うことが2限目までに到着するという未来に到達するための前提条件だ。

 しかし横腹が痛い。

 胸が苦しく呼吸も整わない。

 最近運動していなかったからだろう。

 こうやってつらく苦しい思いをしても、体力をつけるために走ろうとは思えないのだから人間というものは不思議だ。

 いや違うな。

 こんなにのだからおかしくないな…


 ヴー、と携帯が鳴る。

 discordの通知音だ。

 携帯のロック画面にメッセージ内容が表示される。


 アモン「寝坊した」


 俺は同族がいたことに安心感を感じて返信を作成していると目標の駅に着いた。


 既読スルーするわけにはいかないので、その場しのぎのメッセージを送る。


 あなた「既読」


 既読と送るのはどうかとは思ったが俺は急いで携帯をバッグにしまい、定期片手に走り出す。


 改札をくぐって外に出るとひときわ目立つ背の高い白い建物に向かって走り出す。

 今は9時45分。

 学校までは2分で到着し遅刻連絡を職員室に入れて、教室に着くまでの一連の流れで考えると計4分くらいだろう。


 それなら割と余裕をもって到着できるのでは?と思うかもしれないが、それは甘い。

 俺が起きていないということはも起きていないということになるから俺は急いで起こさなければならない。


 あいつが住んでいる白いアパートに到着。

 自動ドアをくぐりエレベーターのボタンを押すが降りてくる気配がないので、階段に向かい、全力ダッシュで6階まで駆け上がり、605号室のインターホンを押しながらポケットから合い鍵を取り出して扉の鍵を開け、玄関に入り靴を脱いで部屋の電気をつける、という一連の動作を約2分間で行った。


「姫宮!起きろー!」


 俺は叫びながら布団にくるまるパートナーから布団を引きはがした。


 するとそこには妖精の様に神秘的な雰囲気を纏う美少女がシャツとパンツだけで眠っていた。

 しかも見た感じブラもつけていない。


 しかしもう耐性がついている俺は足元に散乱している洋服の中から制服を取り出し、着替えさせて、携帯でc4の警音を調べて、音声を耳元で流す。

ピピピピピと少しずつ音が高くなっていく。


 すると妖精はバッと起き上がり両手の指をまるでコントローラーを握るかのように丸める。

 まだ目を眠そうだが、完全に起きたはずだ。


「おはよう姫宮」


 そうやって俺に言われて初めて俺の発言の真意にたどり着いたらしい。

 姫宮は自分の来ている服を見て、胸元を両手で覆い隠して言う。


「えっち…」


「起こしに来てやってるのにそれはひどくね?」


「そういう問題じゃない」


 どういう、といいかけて時間がなかったことを思い出す。


「そうだ!姫宮すぐに学校に行かないと2限目に間に合わなくなる!」


「…え?もうそんな時間?」


「もうそんな時間だ!早く顔洗って、髪整えて!」


 俺は言いながら携帯を取り出す。


「うー、体調悪いから休むー…」


 俺はその発言を聞いた瞬間、姫宮の肩を掴んだ。

 いきなり掴み寄せられた姫宮の肩がビクッとはねる。

 少しの間沈黙が流れる。

 姫宮の顔が赤く染まる。


「ちょ、こんな時間から…」


「…と…ん」


「え?なんて?」


「あと3分!」


 俺は姫宮のバッグを担ぎ、姫宮の手を握り家を出る。

 姫宮は半ば引きずられるような形でアパートを飛び出し、学校に到着し遅刻連絡を行った。

 ぎりぎり2限目に間に合う時間だったが本当に体調が悪かったからか姫宮はそのまま早退してしまった。

 いや多分身だしなみが整ってなかったとかだろう。

 別にいつもどおりで可愛かったけどなあ。

 などと授業を受けながら思っていると、discordの個人トークで姫宮からメッセージが届く。


 姫「ブラは?」


 俺は未読スルーして授業に集中した。



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