eスポーツの神童
コークミルク
追憶
生命は生まれる時を選べない。
生まれる生物種も選べない。
もっと深く。
…人は、生まれる日を、選べない。
人は生まれる場所も、持つべき才能も、生まれて出会う人間も選べない。
…そして
―—生まれる境遇を選べない―—
ここで境遇という点に着眼点を置いて、もし大雑把に幸福な家庭、裕福でなくとも全員が幸福といえるような家庭と裕福であっても幸福とは程遠い家の二つに全てを分けるとすると、生命は2人に1人が幸せで、もう片方はそうでないことになる。
しかし社会は、生命はそう単純ではない。
幸せを感じているが理解していないものや、決して幸せではないのに幸せだと自分に信じ込ませている者もいる。
さらに幸せにも深さや強さがある。
簡単に説明すると、人は生まれる前に無数にわたるふるいにかけられているのだ。
ふるいにかけられ残ったものは境遇に、ふるいにかけられ通ったものは他の部分に代用として才能が宿る。
この話を僕は小さいころからずっと聞かされていた。
子供の時からずっと。
そう、生まれた時からずっと。
僕の生まれた家はどこにでもある普通の家だ。
そこまで大きくもおしゃれでもない一軒家で、ご飯に困らない程度にお金があって、お母さんが料理掃除洗濯をこなし仕事もしていて、お父さんはいつもお酒を飲んでいて、働かず家事もしない普通の家だ。
お父さんはいつも僕に言っていた。
殴られた分だけ幸せになれると。
だから痛かったけどずっと我慢した。
怪我も仕方ないと思っていた。
母方の祖母とお父さんはすごく仲が悪かった。
僕はよく祖母と一緒に出掛けた。
祖母はいつも絆創膏を持ち歩いているようで、いつも僕の怪我を見つけては手当てしてくれた。
その時の僕はどうせ家に帰ったらまた怪我するんだから意味ないのにと思っていて、祖母の行動が理解できていなかった。
弟が生まれた。
その時僕は4歳だった。
世間一般ではこの場合、親が新しく生まれた弟ばかり構って、兄が弟を嫌いになるケースがほとんどだが僕にはそんな感情はなく危機感を胸に抱いていた。
保育施設に通ってなかった僕は本やテレビをいつも見ていた。
だから今自分のいる家庭が普通じゃないことを理解し始めていた。
殴られるときも今までのように希望に感じていた父のこぶしも、徐々に悲しみと怒りに変わりはじめていた。
そんななか生まれた弟。
僕は最初兄としての責任感に満ち溢れていた。
お父さんのこぶしから弟を守ろうと必死だった。
しかし守り切れなかった。
僕が6歳のとき事件は起きた。
祖母と出かけて帰ってくると弟が家にいなかった。
しかし泥酔して寝ている父の拳についている血痕と服の袖が破れているところを見て何が起こったのかを察し、僕はこの時初めて本物の恐怖を感じた。
誰かを守るなんて言っている場合ではない。
一刻も早くこの怪物から逃げなければと。
お母さんは家に帰ってこなくなった。
僕は家庭の完全崩壊が始まったこと理解し、前々から用意を行っていた計画を実行に移した。
翌月から僕は小学校に通い始めた。
しかし平仮名の勉強など、4歳の頃にはできていたことばかりだったので学校をさぼって図書館で勉強していた。
お父さんが文句を言ってくることもなかった。
そのころにはもう家の中にあった金目のものはお父さんの酒代のために売られて無くなっていた。
僕がまともに小学校に通い始めたのは小学校四年生の頃からだった。
通い始めた理由は友達を作る為だ。
社会に出ると最も重要なのはコネクション、つまり人脈ということに気づいたからだ。
だから人脈作りの練習として学校での友達作りをしようと思い学校に通い始めた。
周囲に馴染むように立ち回ったつもりだが、考え方の違いからかクラスで浮いてしまった。
まあずっと休んでいたのでこうなることも予想はしていたので気長に行こうと決意する。
しかしそんなとき僕に一人だけ声をかけてきた生徒がいた。
髪は短めで少し茶色がかっている小学4年生にしては少し高めの身長、そして僕の予想を外させたイレギュラー。
「はじめまして、俺は奥田。お前は?」
予想が外れたことへの戸惑いと驚き、同時にその少し荒い口調に子供らしさを感じた僕は薄く微笑んだ。
こうして僕は僕の人生を大きく変えた人物と出会う。
この出会いがなければ僕のような知識でしかものを知らない、そして全く金を持たない子供が今の僕のようにはなれなかっただろう。
…だからこそ、俺は
―—俺を許すわけにはいかないのだ―—
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