第78話 隠されたもう一つの能力
――自分の縄を解き、タイミングを見計らって悠弥を逃がせば、二人はこの状態から解放されるはず。
そう信じて、しきりに手首を捩り縄と格闘を続ける。
誰の目から見ても、
悲願の
故に、その心も狂ってしまっている。
いくら心を読む覚でも、そんな人間の心を正しく読むことは不可能だった。
夜霧は歓喜に心を躍らせ、この状況に酔いしれている。
そして、波立つ狂喜に激しく顔を歪ませた。
「悠弥は、遠く離れた人間の心を読む
善弥の後ろに立つ少年に向かって、夜霧は同情の顔を作ってみせた。
受けた悠弥はふいっと横を向いて無視をする。
不満そうにフンと鼻を鳴らすと、夜霧は中庭へと目を向けた。
「儂は知っているんだぞ。廉弥は、
空気が揺らいだ。
懸命に脱出を図ろうとしていた紅葉は動きを止め、中庭に佇む廉弥へと視線を移す。
過去読――。
人の過去を読む力。
隠されたもう一つの能力、過去読の力を持つ覚。
それが、廉弥。
廉弥は双眸を閉じていた。きつく結ばれた唇は微かに震えている。
夜霧の言葉が彼の心を揺さぶり、責め立て、それは罪なことなのだと苛んでいる。
夜霧の顔は満足そうに歪んでいた。
そして、ゆっくりともう一人の方へと目を向ける。
視線の先に立つのは、静謐な瞳を携えた美貌の男。
「悠弥も廉弥も、どちらも所詮はただの餌。儂が欲しいのは、遠読でも過去読でもない。千弥――お前が持つ
衝撃に身を震えさせたのは、紅葉だけではなかった。
目前に立つ金髪の覚は息を呑み、中庭に立つ端正な姿を凝視している。
少し間を置き、信じられないというように首を振る。
そして、千弥に向けて悲哀の視線を投げかける。
まるで彼に対して同情しているかのように。
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