第76話 新しい風
薄く漂う呻き声。
吐く息は白く、皆弱々しい。
中庭には腕や足の関節を外されたり、骨を折られた男達が倒れている。
当然命に別状はない。
しかし、動いたり、ましてや攻撃をしかけることができない程度の怪我を負わされている。
うー、うー、と苦悶の声が響いていた。
「
「そうだね。十人くらいかな」
その証拠に、瞳は静かで表情は涼しげ。
二人は相手の心を瞬時に読みとり、その前に行動することで難なく攻撃を躱し、的確に一人ひとりを倒していった。
そして数十人を行動不能な状態にした今。
恐らくこの屋敷内で自由に動ける人間は、あと十人程度だろうと思われた。
「この分だと、千兄が読んだのは間違いだったんじゃないの?」
短刀を持って襲いかかってきた男を俊敏に避け、廉弥はすり抜け間際に膝蹴りを食らわせた。
倒れる前に男の腕を掴み、すかさず関節を外す。
同時に男の口からは情けない叫び声が噴出した。
「どうだろう……ね」
二人の男が同時に短刀を振りかざすのへ、素早く身を屈め長い足を使って男たちの足を払う。
無様に尻餅をつく男の首根を手刀で打ち気絶させ、もう一人の足をあり得ない方向へと折りながら、千弥は物憂げに返事をした。
足を折られた男からは、耳を覆いたくなるような絶叫が溢れ出る。
「
廉弥が発した憂慮の言葉は、不自然に途絶えた。
中庭に吹き込む新しい風が、状況が一転したことを告げていた。
「……残念ながら、予想通りの展開……だね」
前髪を掻き上げ溜息を漏らすと、千弥は自嘲気味に笑った。
やはり運命には抗えない。
読んだままの光景が目前に繰り広げられていく。
その現実が、彼が抱いた微かな希望を打ち砕いていく。
確実に、一歩ずつ近づいていることを否応無しに告げてくる。
二人の前に現れたのは光り輝く金髪の男。
会えば必ずそれと知る、
その後ろには悠弥と紅葉が連れられている。
二人は後ろ手に縄を掛けられ、口は猿ぐつわで封じられていた。
「遅いぞ、
悲痛な声で叫ぶのは、白い髭を蓄えた男、
しかし次の瞬間。
善弥に向けて叱咤したその声は、嘲けた笑声へと変わっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます