第69話 猛反対の波

 猛反対の声が津波のように押し寄せる。



 けれど、そんなものは何処吹く風。


 紅葉もみじの耳には入らない。



「女の子に怪我はさせられないよ。紅葉ちゃん、気持ちはありがたいけどここは我慢して欲しい」


「そうですわ。またあなたに何かあったらご両親にどうお詫びをしたらいいのか分かりません。お願いですから危険なことは考えないでください」


「女子は大人しく家で待っていればいいのです!」



 靖彦やすひこ律子りつこの言葉は神の声。


 梅の言葉は宇宙の揺りかご。



 どんな言葉も、みんな温かくて心地良い。



「紅葉なんかが来ても、足手纏いになるだけだ!」



 そう邪険にする廉弥れんやの言葉さえも、愛の囁きに聞こえてしまう。



「ダメだよ、紅葉。君は特別なんだから」



 頬が引き攣る。



 残念ながら、千弥せんやの言葉には不快にさせられた。


 それまでの気分が一気に台無しだ。



 どうしてこんなに千弥の言葉に引っかかりを覚えてしまうのだろうか。



 真鍋まなべの件に関して、ちゃんとした答えを聞いていないのが原因かもしれない。


 が、実際のところはよく分からない。



 ただ、いつも何かが引っかかる。


 抜けない棘のようにチクチクと嫌な痛みを与えてくるのだ。



 気を取り直し、紅葉は背筋を伸ばした。


 ぐるりと朝比奈あさひな家の人間の顔を見回して大きく息を吸い込むと、満面の笑顔を作る。



悠弥ゆうやはわたしにとって弟同然なんです。絶対無事に連れて帰ります。わたしはここに、自分の家族が受けた恩をお返しするためにやってきました。このまま黙って祈っているだけなんてわたしにはできません。あちらにさとりがいるのなら、心を読まれないわたしが行きます!」



「バカ! お前なんか邪魔なだけだ!」



 廉弥が誰よりも早く猛反対の声をあげた。

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