第54話 紅葉が運転してくれるの?

 千弥せんやがボンネットに手をついて笑っている。


 小刻みに肩を揺らして苦しそうに悶絶している。



 本当にいつもいつも何がそんなにおかしいのだろうか。



「いいけどね。紅葉もみじが運転してくれるの?」



 車体の横で、紅葉はぼぉっと突っ立っていた。


 ハンドルが左側にあるのに気づいて、慌てて右側へと移動する。



「すみません。わたし、外国の車に乗せてもらうの初めてなんです」



 イタリア製のスポーツカーは代表的な赤色ではなく、白い車体だった。


 千弥がエンジンをふかすと、紅葉の耳は凄まじい音に襲われた。



 どう考えてもエコではない。



「ぜひ安全運転でお願いします」



 千弥はクスクスと笑い、「うん。紅葉がそう言うならね」と請け合う。



 何故かまたその言葉が紅葉の神経をうんざりとさせた。



 車は高速道路を走り、都会を抜けて一気に山間部へと進んでいく。


 車内は小さくクラシックが流れていた。



 微妙な眠りに誘われる。



(いけない。女の敵の横で眠るわけには……)



 紅葉の抵抗も空しく、意識はすっかり奪われていった。

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