第46話 警察を呼ぶわよ

「紅葉、お前……」


廉弥れんやもなんか感じたんでしょ。さとりの力で!」


「――もう別れたんだ。俺には関係ない」



 驚愕の顔で紅葉もみじを見つめていた廉弥は、そう吐き捨ててぷいっと横を向いてしまった。



 けれど、平静な様子ではないのは明白だ。


 強く唇を噛み、何かを堪えている。



「あの男、変な人なんでしょ。わたし、野生の勘が騒いで仕方がないんだもん」



 思い切り責めるように廉弥を睨め付ける。


 気迫に押された廉弥は、やがて諦めたように深い溜息を吐いた。



「精神状態が不安定でちゃんと読めなかったから確信が持てないんだ。だけど、暗い思考が見えた。……あいつはたぶん犯罪者だ」


「なっ……それってもしかして、最近この辺りで頻発してるっていう……」


「それは分からないけど、その可能性も否定できない」


「バ、バカっ! 廉弥の大バカ!」



 力一杯罵声を浴びせると、紅葉は踵を返して全速力で走り出した。



「紅葉っ!」



 今や、紅葉は確信していた。


 あのコスプレ美少女が危ない。



 人混みを掻き分け、美咲という少女の姿を探しだす。


 確か赤い衣装を着ていたはずだ。



 しかし、異常な賑わいを見せるこの場所で、特定の人間を見つけることなど困難極まりない。



(ダメ……このまま闇雲に探しても――)



 走りながらも紅葉は懸命に思考を巡らせていた。



 人の行き交いが激しすぎて、彼女を見つけるなど到底無理だと思った。


 そうこうしているうちに、美咲は襲われてしまうかもしれない。


 そんな不吉な予感がどうしても胸から離れないのだ。



 紅葉にはあの美青年の濁った瞳が忘れられない。


 彼の目は狂気を携えていた。



 どうにも抑えられない焦燥感を抱きながらも、ふと紅葉はある可能性に思い至った。


 犯罪者は、人混みよりも少し離れた静かな場所へと彼女を連れていくはず。



 ならば――。



 くるりと角を曲がり、喧噪渦巻く通りから一本、二本と細い道へと入っていく。


 途端に静かな住宅街となり、人の通りも一気になくなった。



(どこにいるの……)



 ただただ焦る紅葉の耳に。


 突然、細く短い悲鳴が届いた。



 逼迫した少女の声に、胸の鼓動が一際大きく波立つ。


 息が苦しいのも構わずに、紅葉はひたすら足を進める。



 果たしてそこは、うっそりと茂る木々に囲まれた暗い公園だった。


 瞳を凝らしてよく見ると、片隅で赤い衣装を着た少女が男に襲われているのが目に入った。



「あなた、やめなさい! 警察を呼ぶわよ!」



 迷うことなく紅葉は二人の間へと割って入った。



 そして美青年だと思っていた男の変貌に息を呑む。


 目を血走らせ、視線は焦点を定めず、病的な異常さを感じさせる容貌に変わっていた。

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