第45話 コスプレ美少女

 コスプレ美少女はかなり憤慨している様子だ。



 どうやら廉弥れんやに好意を持っているらしい。


 しかし廉弥はやっぱり黙りを決め込んでいる。



「廉弥も落ちたわね。こんな女を相手にするなんて」



 吐き捨てるように。


 コスプレ美少女は蔑むような嫌な言い方をした。


 そしてまじまじと紅葉もみじの容姿を検分するように眺める。粘つくような視線を這わせ、くっと勝利の笑いを零す。



 その様子に少しだけカチンときたけれど、紅葉は特に傷つかなかった。


 祥子しょうこと一緒にいた頃はよく比べられたものだから慣れている。



美咲みさき、何してんだよ」



 コスプレ美少女の元へ一人の男が走ってきた。


 スラリと長身の、なかなかの美青年だ。


 当然、廉弥よりはかなり劣るけれど。



「廉弥、見て。彼が今の彼氏。どう? カッコイイでしょ」



 美咲と呼ばれたコスプレ美少女は、現れた美青年に腕を回し意地悪そうに微笑む。


 なまじ綺麗なだけに悪女のようだ、と紅葉は思った。



「美咲の知り合い?」



 紅葉と目が合った瞬間。


 ニヤリと口を歪めた美青年に、背筋が冷たくなるのを感じた。



 顔は笑っているのに瞳は笑っていない。


 何かとても不吉な違和感に襲われる。



 盛んに胸を打ってくる衝撃は、警鐘のような気がして落ち着かない。



「紅葉、行くぞ」



 美咲をすっかり無視したまま、廉弥は紅葉の腕を掴む。


 そして、ぐいぐいと引っ張ってその場を去ってしまった。



 隣を歩く廉弥の横顔からは何の感情も見て取れない。



「ねぇ、廉弥。あの子、廉弥の彼女なんでしょ?」


「……」



 廉弥は答えない。


 けれど、動揺する空気が紅葉の問いを肯定していた。



「いいの? あんな男にとられても」


「……紅葉には関係ないだろっ」



 ぶっきらぼうに返事をする今の廉弥は、何故か子供っぽく見える。



 そんな廉弥から腕を引き剥がすと、紅葉はその場に立ち止まった。


 腰に両手を当て、仁王立ちになっている。



「情けないわね、男ならとり返しなさいよ! あの女の子はあんな言い方をしたけど、本当は廉弥のことが今も好きなんだよ。廉弥の方があんな男よりずっといい男だし、あの人……ちょっと、変だと、感じた……」



 さっき感じた悪寒を思い出すと、居ても立っても居られなくなる。


 そんな焦燥感に駆られ、紅葉の語尾は知らず途切れ途切れになっていた。

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