第44話 怪しい者ではありません

 日曜日の秋葉原は歩行者天国となっていた。



 いったいどこからこんなに集まってくるのだろうか。


 そう疑問に思うくらい、歩道も車道も関係なく、どこを見ても人で溢れかえっている。



 しかもなんだか行き交う人々は一様にオタクの香りがする。


 何というか……同じような系統の格好や風貌をしているのだ。



 外国人の客も多いし、コスプレをした男女もたくさんいる。


 ただでさえ暑い季節なのに、ここはさらに気温が高く感じられた。



 最近、秋葉原ではコスプレをした美少女を狙った犯罪が多発してるという。


 よく見ると警官が要所要所に立っていて、警戒を強めているようだった。



 新しいパソコンを作るからといって、廉弥れんやはパーツの買い出しに来たらしい。


 紅葉もみじには何が楽しいのかよく分からない。


 が、裏通りのジャンク屋に迷わず入った彼は、無造作に部品が入れられた籠の前に座り込み、ごそごそとお宝漁りに余念がない。



 廉弥はかなり美形だし、彼のさらさらの髪も茶色の瞳をとってみても、どう見てもいわゆるオタクに見える外見ではない。


 けれどここへ来て、廉弥が間違いなくオタクであることを確信した。


 何よりも部品を見つめる目の輝きが尋常ではない。



 ――と、そこへ、



「廉弥……」



 小鈴のような声。


 紅葉と廉弥の前には、コスプレ姿の美少女が立っていた。



 大きな瞳に可憐な唇、腰まで届く長い髪。


 赤いドレスのコスプレ衣装がよく似合う本物の美少女だ。


 ちょっと気が強そうだけれど。



 そんな美少女をすっかり無視して、廉弥は徐に歩き出す。



「ちょ、ちょっと廉弥! 知り合いなんでしょ、無視するなんて最低だよ!」



 廉弥の胸ぐらをむんずと掴み、紅葉はコスプレ美少女の前へと無理矢理引き摺り出す。


 特に抵抗はしなかったが、わざと聞こえるように廉弥は大きく舌打ちした。



「この女、誰?」



 コスプレ美少女は紅葉を指差す。



「……」



 しかし廉弥の無視は続く。



 このままでは良くないと思った紅葉は、彼女が誤解しないようにと口を挟んだ。



「あの、わたし、高木紅葉と申しまして、朝比奈あさひな家で家政婦をしているだけです。決して怪しい者ではありません」



 真面目な顔で言う紅葉の自己紹介に、堪らず廉弥が「ぷぅっ」と吹き出す。



「嘘よ、こんな若い家政婦がいるわけないでしょ! 廉弥、この女は何なのよ!」

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