第41話 やっぱり一番可愛いな
小学校の校舎は、驚くほどに小さく感じられた。
子供の時は大きいと思っていた学舎も、大人になってから見るとびっくりするほど小さく感じるものだ。
校庭や体育館も同様だし、遊具に関してはもっと顕著にそう感じる。
とはいえ当然、
何でも、設備も華美で先生も超一流なんだとか。
紅葉は一応カジュアルなスーツに身を包み、「母親は都合で来られないため、大学生の姉が来ました」というような設定を頭に思い描いて赴いた。
本当は千弥に頼もうかとも思った。
けれど悠弥の気持ちを考えると、いくら兄弟とはいえあまり大袈裟にしない方がいいと思い至ったのだ。
周りにいるのはみんな金持ちの奥様方だった。
身なりも綺麗だし、纏うオーラに生活の余裕が感じられる。
しかし奥様方はそれぞれが過剰に意識しあっていて、何か殺伐とした雰囲気が漂っていると感じるのは、恐らく錯覚ではないだろう。
その部分ではまったくもって余裕はなさそうで、お互いに身に着けている衣服や装飾品を検分するのに余念がない。
教室の後ろに並ぶ母親たちの間では、紅葉には決して理解できないような競争意識が激しくぶつかり合っているのだ。
参観対象となったのは算数の授業。
子供たちは机上に教科書や筆記用具を用意し、始業のチャイムが鳴るのを待っていた。
(あ、悠弥だ。やっぱり一番可愛いな)
早生まれのせいか少し身体が小さいため、悠弥は前から二番目の席だった。
有名私立小学校の坊ちゃん嬢ちゃんは、みんな綺麗な服を着ておすまししている。
しかしその中でも、悠弥の容貌は抜きんでて美形だった。
「ほら、あの可愛らしい子。有名な
「あらぁ、本当に将来が楽しみねぇ」
「でも――奥様はお忙しくていつも参観にいらっしゃらないのでしょう? いくら大金持ちでも、愛情がないなんて可哀想ですわ」
「まぁ、それは問題ですわね。愛情が足りない子って犯罪を起こしやすいと新聞にも載っていましてよ」
紅葉はカチンときた。
「あとで、うちの子に近寄らせないよう、先生にお願いしておきますわ」
悠弥のためにも我慢しようと思っていたが、ここで敢えなくキレた。
「うちの悠弥がなにか?」
実のない雑談を繰り広げる奥様方の間に、紅葉は堂々と割って入る。
「あなた、どちらの奥様で?」
例えるとしたら〈女狐〉という表現が相応しそうな奥様が訊いてきた。
金縁眼鏡から覗く細い目が、典型的な〈教育ママ〉を想起させる。
よく似た顔の子供が悠弥の後ろに座っていた。
間違いなくその子の母親だろう。
「朝比奈悠弥の姉です。いつもお世話になっています」
「あ、あら。お姉様がいらっしゃったなんて初耳でしたわ」
「ええ。訳あって暫く離れて暮らしていましたから……。久しぶりに帰ってきたので、悠弥が勉強している姿を見ようと、今日は母の代わりにわたしが来ました。ですが――」
フッと不適に笑い、そして紅葉は続けた。
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