第31話 覚の宿命

 ここで動揺している場合ではない。


 彼にはどうしても聞き質さなければならないことがある。



「ご両親には伝えないのですか? 悠弥ゆうやが狙われていることを」



 千弥せんやに真っ直ぐ向き直り、紅葉もみじははっきりと問うた。


 その瞬間、何とも言えない嫌な沈黙が広がった。


 けれど紅葉は臆せず、千弥の妍麗な容姿を注視し続ける。



 兄弟の責任は、長男である彼が取るべきだ。


 その判断も彼の責務。



 やがて溜息を一つ吐き、千弥は廉弥れんやと悠弥の顔を順を見てから答えた。



「紅葉は手厳しいね。でも、君の言う通りだ。この責任は僕にある」


「千兄のせいじゃないよ!」



 悠弥が千弥を庇う。


 そこへ、



靖彦やすひこさんと律子りつこさんに話すのか?」



 冷静に廉弥が問う。


 その問いに千弥は苦笑を返した。



「絶望するといけないと思って黙っていたんだけれど……。実はね、既に二人は知っているんだよ。ついでに言うと梅さんもね。みんな、廉弥と悠弥に心を読まれるといけないから、夜霧のことはできるだけ考えないように努力してくれていたんだ。何故なら――」



 続いて呟かれた千弥の告白に、紅葉を含む三人は愕然とした。



 さとりの力を持つ者は、自分でその身を守るのが宿命。


 人の心を読み、誰よりも素速く行動して、決して捕らわれることなく、ましてや殺されることなく生きられて当然とされている。


 力を上手く利用できたならば、巨万の富を手に入れることも可能だ。


 それ故に、誰の力も必要としてはならない。



「でも僕たちは幸せだと思う。不思議なことに三人とも覚の力を持って生まれた。だから三人で力を合わせていけるんだ。悠弥はね、まだ子供だから今回のように攫われそうになったけれど、大きくなったら大丈夫だよ。それまでは、僕たちが守るから」



 千弥は優しく悠弥の頭を撫でた。



「そ、それでも! 親には子供を守る義務があると思います! その夜霧家という親戚連中に、文句を言ってもらえないのですか!」



 紅葉は納得できなかった。


 確かに家庭それぞれに事情はあるのかもしれない。


 しかし、子供を守るのが親の責任という意味では違いなんてないはずだ。



「そうだね……。だから靖彦さんも律子さんも、できる限りのことはしてくれているよ。だけど、どんなに釘を刺したところで、彼らは〈覚〉を手に入れようとする。縁戚だしね、警察は動いてくれない。覚という能力を持つ人間の存在を世間に知られることも懸念されるしね。どのみち、自分たちで切り開いていくしかないんだよ」



 まるで自分に言いきかせるかのように、千弥は少しだけ語調を強くした。



「もし捕まったら……俺たちどうなるんだ?」



 訊いたのは廉弥だった。

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