第30話 妖《あやかし》の家系
――
それは、昔から山奥に住んでいるといわれる妖怪の名称。
人の心を全て見透かし、どんな行動をも予知する。
そんな特殊能力を持つ彼らは、決して人に捕らえられることはないのだという。
そのため、人の心を読み、運命を鑑定する
しかし、百年ほど前から徐々に覚の力を持つ者が生まれなくなり、朝比奈家はみるみる衰退していった。
覚を必要としない時代の到来。
それを敏感に感じ取った朝比奈家は潔く八卦見を捨て、やがて家業を解散したのだ。
故に、覚の血は途絶えたとされている。
しかしここへきて、朝比奈家に生まれた三兄弟に覚の能力が現れた。
けれど既に八卦見としての家督は忘れられて久しい。
その能力を活かすべき家業は存在しない。
現に今の朝比奈家は大病院を営み、まったく違う生業で成功を収めている。
だが過ぎ去りし栄光を夢見て、彼らの力を利用したいと企む親戚縁者がいた。
それが――
「梅さんはやっぱり妖怪だったんですね」
開口一番。
そういう紅葉はたくさんの裂傷と打撲を負い、結構痛々しい姿になっている。
顔も殴られて青痣になり、梅のことは言えないくらい今や立派な妖怪顔だ。
どうやら、らくだ色の腹巻きに助けられたようだ。
やっぱり、おなかは守るべきなのだ。
「厳密に言うと違うよ。妖怪なんて存在しない。僕たちは、覚の能力を持った人間ってことだよ。つまり……人の心が読めるんだ」
梅への妖怪疑惑をさらりと否定したあとに、千弥は驚くべき事実を口にした。
「昨日の夜、俺ぐっすり寝てたけど、流石に悠弥の叫びに起こされた!」
一度眠ったら朝まで死んでも起きないという
通常、覚はある一定の距離にいる人間の心しか読めない。
しかし、悠弥は覚の中でも特殊な能力を持っており、遠く離れた場所にいる人間の心を読んだり、また自分の声を飛ばすことができるのだという。
廉弥が外へ出た時には、既に悠弥は男に捕まっていた。
彼の言い分では、男たちの前に姿を現してしまうより退路を断っておこうと考えた。
そして裏口からこっそり回って車の部品を外しておいたのだそうだ。
(そんなことより助けてちょうだいよ)
内心で不満を垂れながら、紅葉は廉弥に対して冷たい視線を投げる。
「うん。僕もちょうど帰宅途中だったんだけど、悠弥の声が聞こえたから急いで車を走らせたんだ。だけど、もう少し早く着ければ良かったのにね。ごめんね、紅葉」
この時から千弥は、「紅葉」と親しみを込めて呼び捨てにすることにしたらしい。
突然の変化に紅葉は一瞬怯んだが、すぐに体勢を立て直した。
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