第28話 救世主

 いくら貧乏で鍛えられているとはいえ、所詮紅葉もみじはか弱い女子高生。


 相手がプロでなかったとしても、大の大人二人に勝てるはずもない。


 振り上げたドライバーは見るも無残に空振りし、あっという間に地面に叩き落とされた。



 流石にナイフは使ってこなかったが、紅葉は殴られ蹴られ、最後に鳩尾に一発叩き込まれてその場へ蹲っていた。


 苦痛の呻きを漏らしている。



「女の子を苛めるのは俺たちも嫌だったんだけどねぇ……お礼を言わないといけないかな。お陰で探す手間が省けた」



 男の言葉に振り返ると、玄関の前に悠弥ゆうやが立っていた。



 紅葉の部屋からはこの場所が見える。


 とても見ていられなくなったのだろう。



「悠弥、逃げて!」



 叫ぶと同時に背中が思い切り蹴られた。


 口から内蔵が出そうなくらいの激痛が紅葉を襲う。



「やめろよ! 紅葉は関係ない!」



 気丈に叫んだ悠弥だが、身体は泣きながら震えていた。


 その小さな少年へ、男の一人がのっそりと歩み寄る。


 いやらしく口角を持ち上げ、少年へ向けて誘惑の言葉を吐く。



「何もとって食おうというわけじゃないんだよ。夜霧家には君の力が必要なだけ。あのお嬢ちゃんをこれ以上傷つけられたくなければ、大人しく一緒に来てくれるね?」


「ダメ! 悠弥、早く逃げて! 警察に……」



 今度は顔を殴られた。


 唇が切れ、口の中に血の味が広がる。



「行く! 行くから、もうやめろ!」



 悠弥は堪らず観念してしまった。


 男に腕を掴まれて、引き摺られるように連れていかれる。



「悠弥!!」



 叫んだ紅葉の声は掠れていた。


 脳裏には自分の弟と妹の顔が浮かんでいる。


 まるで家族が連れていかれる、そんな錯覚を起こしていた。


 もう二度と会えなくなってしまう……恐ろしい予感が紅葉を戦慄させる。



 その時——。



 眩しいばかりのヘッドライトが辺りを照らし出した。



「だ、誰だ!?」



 二人の男はぴたりと動きを止めた。


 容赦なく照らしてくるハイビームに手を翳し、ただならぬ焦燥を漂わせながら誰何する。



「僕たちは玩具ではありません。大人しく悠弥を返していただきましょうか」



 紅葉は顔をあげた。


 発せられた声には聞き覚えがある。


 声の持つ凛とした響きが、男たちの危惧するところを肯定させたようだった。

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