第27話 腹巻の少女

 二人の男は顔を見合わせた。


 しきりに首を傾げている。


 どうやら紅葉もみじの登場は想定外だったようだ。



「ぷーーーっ! あの娘の格好! このご時世に、ら、らくだ色の腹巻き……」



 一人が吹き出し紅葉を指差す。


 すぐにもう一人の男も身体を折って笑い出す。


 月の光と敷地内の外灯が、腹巻きの色までをもはっきりと照らし出していた。



「いい大人が何言ってるのよ。笑われるくらいどうってことないわ。世の中、恥ずかしいことなんて一つもないのよ! 身体を壊すことの方が受けるダメージは大きいの!」



 紅葉は心底呆れて言い放った。


 腹巻き姿を恥ずかしいなどとは露ほどにも思っていない。



「あ、あんた誰? 朝比奈あさひな家の人間じゃないだろ?」



 左の男が笑いを鎮めながら訊いた。


 右の男は座って苦しそうに笑っている。



「わたしは高木紅葉。今日から朝比奈家の家政婦になったのよ。あなた達は親戚なんでしょ? どうしてこんなことをするの!?」



 サングラスで表情はよく分からないが、左の男はニヤリと口の端を持ち上げたようだ。


 右の男は地面を叩いてまだ笑っている。



「俺たちは夜霧よぎり家の人間で、確かに朝比奈家とは縁戚関係だ。お嬢ちゃんはまだこの家に来たばかりだから知らないだろうが――この家は宝の山なんだよ」


「そんなの知ってるわよ。大金持ちだもん」



 馬鹿馬鹿しくて請け合えないといった態度を、紅葉は速攻で返した。


 左の男は一瞬呆れたようだったが、すぐに顔をいやらしく歪める。



「お嬢ちゃん、〈さとり〉って聞いたことはないかい? 人の心を読む妖怪」



 ぞくり。



 背筋が寒くなった。


 その言葉には聞き覚えがある。



「なっ、なによ! 確かにここには妖怪が一人いるけれど、そんな弱そうな妖怪じゃないわ!」



 まったく話が噛み合っていない。


 一瞬、二人の男はまぬけ面を晒す。


 が、我に返るとその手にナイフを煌めかせた。



「残念ながら、お嬢ちゃん一人殺してでも、悠弥ゆうやはもらって行くつもりだ。大人しくそこを通した方がいい。よく見ればなかなか可愛い顔をしてるじゃないか。傷でもついたら大変だ」



 押し寄せる殺気は本物だ。


 紅葉は野生の勘でそう確信した。



 けれど、ここで大人しく悠弥を連れ去られたら、きっとずっと後悔する。


 その気持ちが彼女に勇気を奮い起こさせる。


 ドライバーを構え直すと、紅葉は気合いの声を発して向かっていった。

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