第22話 次男:廉弥 心の声

「あはははは」



 起き上がろうとする紅葉もみじの背を軽やかな笑声が打つ。


 悠弥ゆうやの声だ。



「ダメだよ、紅葉。廉兄れんにいは人の声は聞かないんだから」



 意味不明。



「――じゃあ、誰の声なら聞くのよ」



 紅葉は普通に訊ねてみた。


 それへ、悠弥は壁に背をつけ胸に手を当てると、格好つけて答える。






「心の声」




 ぷーーーーーーーーっ。



 思わず紅葉は吹き出した。


 床を叩いて笑い転げる。



「紅葉、笑いすぎ!」



 顔を赤くして頬を膨らます悠弥に、紅葉はまだ笑い続けながらも「ごめん、ごめん」と謝った。


 悠弥を見ると再び笑いが込み上がってきて堪らない。



「と、とりあえず、わたし部屋まで行って挨拶してくるから」



 まだ笑いがおさまらない状態で、紅葉は三階まで一気に駆けあがった。



 真ん中の部屋が確か廉弥れんやという次男の部屋だったはずだ。


 一つ一つの部屋が広いのだろう。


 左右にある千弥と悠弥の部屋までの距離が長い。


 深呼吸を何度か繰り返して、紅葉は扉をノックしようとした。


 その瞬間。


 勢いよく扉が開き、紅葉の顔面を直撃した。



「お前、俺を殺しに来たのか?」



 悶絶する紅葉を労ることなく、廉弥は理解できない言葉を浴びせる。



「こっ、殺されるのはわたしの方よ!」



 真っ赤になった鼻を押さえて、紅葉は涙目で訴える。


 長い沈黙。


 紅葉が廉弥の茶色い瞳を睨み据えたまま、十数秒が経過する。


 先に口を開いたのは、関心顔をした廉弥の方だった。

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