第21話 次男:廉弥 完全無視

 暫く玄関で待ってみるが、廉弥れんやという次男はなかなか現れない。


 時間がもったいないので、とりあえず、紅葉もみじは自室で荷物の整理をすることにした。



 持参したのは大きな荷物一つだけ。


 家政婦としてきたのだ。


 お洒落を気にする必要もないから必需品一揃えしか持っていない。


 女子高生の割には少なすぎる量だったため、設えられているクローゼットに難なく収まり、あっという間に片付いてしまった。



(……誰?)



 扉の外に気配を感じる。


 思い切って開いてみると、そこには悠弥ゆうやの驚いた顔があった。



 何をそんなに驚いているのだろう。


 まるで鳩が豆鉄砲を食ったように口をパクパクしている。


 不思議に思ったけれど、紅葉が笑って「入っていいよ」と言うと、真っ赤になりながらも悠弥は部屋へとあがりこんだ。


 何が良いのか分からないが、どうやら気に入られたらしい。



「こんな狭い部屋、俺だったら耐えられない!」



 綺麗に無視した。


 金持ちと貧乏人の価値観は、宗教が違うのと同じくらい異なるものだと紅葉は思っている。


 言い争うこと自体が無駄。



「あ、廉兄れんにいだ!」



 紅葉のベッドに腰掛けていた悠弥が勢いよく叫ぶ。


 暫くすると、玄関の方で人の気配がした。



「悠弥って勘がいいんだね。さっき千弥せんやさんのデートも見抜いてたし」


「……」



 褒めたつもりだったが、悠弥は俯いて黙ってしまった。


 そして何を怒ったのか、スタスタと一人で部屋を出て行ってしまう。


 難しい年頃なのだろうか。



 急いで玄関へ行くと、廉弥れんやという次男らしき人物がいた。


 腰を下ろして靴を脱いでいる。


 後ろ姿しか見えないけれど、千弥と同じさらさらの髪は少し茶色で、時々覗く横顔はかなり端正な面立ちだった。


 悠弥もよく見れば可愛い顔立ちをしているし、どうやら朝比奈あさひな家は美男三兄弟に恵まれているようだ。


 廉弥の傍に行くと、紅葉は膝をついて丁寧に挨拶をした。



「はじめまして。わたし、高木紅葉と申します――」



 しかしいくら待っても何の反応も返って来ないので、不安になった紅葉はちらりと顔を上げてみた。



 と、そこに彼の姿はなく……。



 頭を下げている紅葉を完全に無視して、廉弥はとっくの昔に姿を消していた。

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