第23話 次男:廉弥 オタクの楽園
「へぇ、本当にいるんだ。俺、次男の
「ひどいっ。さっき玄関でわたしが挨拶したの、ちゃんと聞こえてたくせに――。わざと無視したのね!」
紅葉は抗議する。
名前を知っているということは、先ほど意図的に聞こえない振りをした証拠。
いくら初対面でも酷すぎる。
しかし気がつけば、憤る紅葉の前で廉弥が激しく肩を震わせていた。
「……な、なに笑ってるのよ、失礼ね」
「は……鼻血出てる」
驚いて無造作に鼻を拭いてみる。
腕に真っ赤な線がついてきた。
廉弥は徐に紅葉の手を取ると、まだ下を向いて笑いながらも部屋へと入れた。
「暫くここで横になってな。
ソファに紅葉を寝せティッシュ箱を抱えさせると、廉弥は部屋を出ていった。
直後、扉の外で笑い声が響く。
どうやら堪えていた笑いを思い切り発散させているようだ。
長男の千弥は医大生だという。
けれど鼻血程度で診てもらう必要はないだろう。
さっき無視されたことには腹が立つが、廉弥は意外と優しいのかもしれない。
そう紅葉は前向きに思うことにした。
見回してみると、廉弥の部屋は一言で言って〈オタクの楽園〉だった。
自作らしいパソコンやよく分からない部品類。
カメラやビデオ、変な怪しい本が山積みにされている。
広い部屋だからいいものの、紅葉の家だったら絶対に入りきらない荷物の多さだ。
その一画に何やらオタクを決定付けるものが並んでいる。
フィギュアだ。
綺麗にフィギュアケースに並べられている。
「あ! エリオット様だ!」
紅葉の目に留まったのは、人気長編小説〈七人の魔導師〉の主人公エリオットのフィギュア。
それもその辺で売っている小さなタイプではなく、高さ三十センチほどの大きさで、かなり精巧な造りをしているようだ。
(……もっと近くで見たい)
誘惑に負けた紅葉は、頭を上に向けたまま溶けるように床へと下りる。
鼻血が零れ落ちないよう仰向けの状態で、目指すフィギュアの元へと移動する。
ナメクジのようにずるずると――。
「紅葉さん……」
嗄れた声に、またしても我に返る。
そうだ、自分は使用人だった。
救急箱を持った梅の後ろで、廉弥と
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