第16話 三男:悠弥 笑うな、妖怪

「あ、えっと……」



 しどろもどろになる紅葉もみじ


 そんな彼女を、少年はさらにじっとりと見下ろす。



 完全に迫力で負けた。


 とりあえず、この家の子供ならばきちんと挨拶しておくべきだろう。


 観念した紅葉はゆっくりと立ち上がり、少年へ向けてお辞儀をした。



「きょ、今日から家政婦としてお世話になりま……」


「う、うわぁぁぁぁぁ!」



 突然。



 何か恐ろしいものでも見たかのように、少年は大声をあげた。



「あ、えっ!!」



 次いで。



 困惑する紅葉を思いっきり両手で突き飛ばすと、少年は弾かれたように走って行ってしまう。


 ぎゃぁぎゃぁと意味不明な声をあげながら、脇目もふらず玄関の扉目指してまっしぐらに。



「な、なんなの……?」



 尻餅をついた紅葉は訳が分からず呆然としていた。


 暫くして、乾いた溜息を一つ吐く。



 何か驚かせるようなことをしてしまったのかと考えてみるも、特に思い当たる節はない。


 そもそも会話らしい会話すらしたとも思えない。



 仕方なく制服についた土埃を払い、フジコを連れて玄関へと入った。


 と、右手奥に人の気配。



 よく見れば、扉に隠れるようにしてさっきの少年が立っていた。


 何だかまだ警戒しているような雰囲気だ。



「わたしは高木紅葉。〈紅葉もみじ〉って気軽に呼んでね」



 こういう子供には慣れている。


 気を取り直すと、紅葉は笑顔で挨拶をした。



「笑うな、妖怪!」



 一瞬の自失。



 今、何か変なことを言われたような……。


 紅葉の顔が流石に引き攣る。

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