第13話 フジコの世話もお願いします
案内された部屋は八畳ほどの洋室だった。
「今日からここが、
住み込み家政婦用の部屋で、一階のキッチン近くに位置している。
使用人用とはいえ紅葉にしてみれば十分過ぎるほど綺麗で広い。
部屋には立派なベッドと大きなクローゼット、大きな文机までが備え付けられている。
「えっ。こんな立派なお部屋をわたしなんかに……」
梅はあからさまに胡乱な目を向けた。
「あなたのことですから、嫌味ではないでしょうけどね。一応言っておきますが、この部屋は
これが一番粗末とは驚きだ。
都内でこの程度の部屋を借りようとしたら、結構大変な額になるはず。
紅葉のような貧乏高校生にはどう考えても縁はない。
初めて与えられた一人部屋に紅葉の心は躍っていた。
そのままの感想を正直に口にする。
「ありがとうございます! 高木家は貧乏でとても一人部屋なんて与えてもらえる余裕はなかったんです。本当に嬉しいです」
流石にここまで嬉しそうに礼を言う紅葉に、梅もすっかり疑いを解いたようだ。
コホンと一つ咳払いをすると「それは良かったですね」とだけを返す。
梅はそのまま屋敷内を案内した。
一階は主に共有部分だそうだ。
先ほどの広いリビングをはじめダイニングやキッチン、バスルームや客室等がある。
地階もあり、そこにはワインセラーや食料庫のような地下室があるという。
表門から入った時には確認できなかったが、離れには梅専用の茶室もあるらしい。
二階は夫妻と梅の部屋。
書斎や少し小さめの客室、それからシャワールームも完備されていた。
そして三階は――。
「孫たちの部屋です。奥から長男、次男、三男と続いてます」
紅葉の目からは凄まじい勢いで鱗が落ちた。
あの若くて綺麗な律子に、三人も子供がいるなどと想像しようにも無理がある。
それも男子三人とは驚きだ。
(きっとまだ小学生と幼稚園児ってとこかしら)
ふと頭に浮かんだのは、団子になった悪ガキ三兄弟。
しかも頭の中には、先日までアルバイトをしていた保育園のやんちゃな子供たちの姿が浮かんでいた。
が、すぐにその妄想を打ち消す。
いやいや。
ここは大富豪の邸宅なのだから、当然三人とも超お坊ちゃまなのだ。
私立の学校に通っていて、きっと礼儀正しいに違いない。
どの部屋に行っても、紅葉は梅の横で感嘆の声をあげていた。
この豪邸はテレビドラマに出てくるのと同等か、もしくはもっと上級と言えるだろう。
感動せずにはいられない。
一通り案内してもらったところで一階へ戻ると、思い出したように梅が付け加えた。
「あ、そうでした。フジコの世話もお願いします」
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