第14話 猫に散歩

 紅葉もみじの頭に思い浮かんだのは、スタイル抜群の美女だった。

 

 世話とはいったい何のことだろう。

 

 そんな疑問を口にしようとした時。

 

 

 目の前を大きな白い毛むくじゃらが横切っていった。

 

 

「……犬ですね。分かりました」

 

「猫です」

 

 

 紅葉は目を剥いた。

 

 

 今通っていった生き物は、どう見ても体重十キログラムは軽く超えていただろう。


 頭だって犬並みに大きかったような……気がする。


 驚く紅葉に向かって梅が解説した。



「〈メインクーン〉という種類なのです。骨格は大きいのですが、とても穏やかな性格の猫なのですよ。フジコは体長が一メートルを超えていますし、体重も十二キロ以上ありますからね。健康のためにも散歩が必要なんです」



「はぁ……」

 


 猫に散歩。

 


 そういう様子を、今までの人生で一度くらいは見たことがあるかもしれない。


 けれども、自分が猫の散歩をする姿はどうにも想像しがたい。


 それに体長が一メートルを超えるとは、それは本当に猫なのか。

 


「それから。フジコは毛足が長いので、毎日ブラッシングは欠かさないでくださいよ。毛玉になると大変ですから。……紅葉さん、大丈夫ですか?」

 


 呆ける紅葉を、梅は胡散臭そうに気遣う。

 


「あ、はい! わたし、猫は大好きですから大丈夫です。昔、三毛猫を飼っていましたし」

 


 そこまで言って、やっと梅は信じてくれたようだった。

 


「おや、もうこんな時間ですか。そろそろ夕食の支度をしなくてはなりません。ですが、今日は紅葉さんも荷物の整理があるでしょう。お手伝いいただくのは明日からでいいですよ。ただ、フジコの散歩だけはお願いしますね。胴輪とリードは玄関にありますから」

 


 意外にも優しい言葉をかけられて、少しだけ緊張が解される。

 

 今日から早速バリバリ働く気でいた紅葉は、少し肩すかしをくらった感じだった。

 

 けれどその心遣いがなんだか嬉しくて。


 梅の好意に素直に甘えることにした。

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