第11話 姉弟みんな売られてドナドナ

 冷淡に一言で済まそうとする姑へ苦笑を漏らしながら、美人の奥様が説明をする。



「確か……高木紅葉たかぎもみじさんとおっしゃるのよね? きっとあなたは玄関の扉を三回以上叩かれたのでしょう。それが二回だったら、お義母様は『不合格』とおっしゃるわ」



 何のことだろう。



 奥様の説明を聞いても、紅葉には何のことかさっぱり分からなかった。


 眉間に皺を寄せ、激しく首を傾げてみせる。



「知らないでおこなったのですか。それでは減点です」



 呆れ顔の姑に、奥様はクスクスと上品に笑った。



 後で分かったことだが、扉をノックするのが二回というのはトイレの確認用だとか。


 ちなみに三回は親しい間柄の場合であって、初めて訪れる家や礼儀が必要な訪問の場合は四回が正しいのだそうだ。


 紅葉は二回を二度で計四回叩いたのが、偶然吉と出たようだ。



「紅葉さん、お座りになって。お義母様も」



 優しい声に促され、姑はさっさとソファに座る。



 しかし紅葉は座らなかった。


 その場で床に膝をつき、「すみません!」と叫びながら徐に土下座をする。



「父が大変お世話になりました! 高木家は元々本当に貧乏でしたが、父は一年前に会社をリストラされてしまい、より一層貧乏に拍車が掛かってしまいました。その上、家族に内緒で消費者金融に手を出し、わたしたちは夜逃げをしなくてはいけないところだったんです。それを助けていただいたご恩、娘であるこのわたしが——」



 そこで一旦言葉を切り、



「しっかりすっきりきっぱりばっちり、お返ししたいと思っています。どうかよろしくお願いします!」



 誠心誠意を込めて、紅葉は決意を表した。


 そのまま暫く床に頭をつけていたけれど、何も返答がない。


 不安を覚え、紅葉はそっと顔を上げてみる。


 と、二人は下を向き、声を殺して笑っていた。



「夜逃げ……て。紅葉さん、あなた面白い方ね。わたくしはそんなに大変なことをしたわけではありませんよ。ですから、そこまで一生懸命おっしゃらなくても……」



 最後まで言い終える前に、奥様はまた肩を震わせて笑った。



「いいえ! 奥様には些細なことでも、高木家にとっては断崖絶壁。もうすぐ姉弟みんな売られてドナドナになるところを助けていただいたんです!」

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