第6話 金魚のように口をぱくぱく
「なんですって!?」
蒼穹に、嘆きの声が突き刺さる。
電線にとまっていた
可憐な少女は、その美しい容姿には似合わない叫び声をあげたあと、元々大きな瞳を零れ落ちそうなほどに見開いていた。
ふるふると小さく頭を振り、震える声を絞り出す。
「確かに……昼の番組などでは聞いたことがある話ですけど。まさかこんな身近に起こっているとは思わなかったですわ!」
「う……ん。そうだね。
いつになくしんなりと答える。
常にポジティブ思考の
「紅葉は可哀想です! ただでさえ毎日毎日学校帰りに保育園でアルバイトをしていたというのに、それも
親友の
ストレートのさらさらヘアを肩まで伸ばし、黒目がちの大きな瞳はいつもきらきらと輝いている。
そのまま女優にでもなれそうなものだが、彼女の夢は意外や意外、専業主婦。
小学生からずっと一緒に育ってきたはずなのに、容姿をはじめ、頭脳も性格もその言動すらもまったく同じものが見当たらない。
単に遺伝子とか、貧乏と金持ちの差だとも思えない。
傍にいると否応なしに引き立て役に回ってしまうのだが、幸い紅葉はそんなことを気にする性格ではなかった。
それに、嫉妬を感じるのも
そんな彼女が親友であるのを誇りに思うことはあっても、妬むなどあり得ない。
そして今、美人の親友は大声をあげ嘆き悲しんでいた。
「担任の先生はどうおっしゃっていますの?」
長年の付き合いだからこそ分かる。
穏やかな口調だけれど、祥子の声はいつもよりずっと興奮している。
「うーん。留年とか、定時制とか、そういう選択肢もあるんだから、退学だけはしない方がいいって引き止めてくれた。でもその家に行ったら、いつ戻って来られるのか分からないわけだし……。一応、一年間っていう約束にはなってるみたいだけど、実際どうなるのかは行ってみないと分からない。お父さんが借りたのは大金だから……」
ガシガシと頭を掻きながら、紅葉は溜息混じりに答えた。
貧乏のせいでお金に悩まされることはこれまでにも度々あった。
それこそ、給食費も納められず、嫌な思いをした記憶だってあるくらいだ。
けれど、学業を犠牲にするところまで追い詰められたのは初めてだった。
両親の前でああは言ったものの、正直なところ結構精神的に堪えている。
故に、漏れる溜息は長くて深い。
突然。
祥子はくるっと向きを変え、正面から紅葉と顔を合わせた。
いつになく真剣な顔つきだ。
「必ず戻ってくると約束してくださるのでしたら――わたくしも留年につきあって差し上げてもいいですわよ」
さらっと言い切る祥子。
しかし、その内容は笑って過ごせるものではない。
紅葉は驚き過ぎて金魚のように口をぱくぱくさせた。
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