第2話 覚《さとり》
玄関から現れた老人は、その手に
「わぁー、サンタさんだぁ!」
サンタクロースはたちまち園児たちに囲まれた。
「よっこらしょ」と掛け声をかけ、ゆっくりとその場に座る。
そして白い袋からプレゼントを取り出し、ひとりずつ手渡しながら頭を優しく撫でていった。
溢れる笑顔。
プレゼントを受け取った子供たちは、床に座り嬉しそうに封を開ける。
中身を見た園児たちは、一人残らず瞳を輝かせた。
「毎年ありがとうございます。あの――今年こそ、お名前を教えてくださいませんか?」
一通りプレゼントを渡し終わったサンタクロースの傍へ歩み寄ると、
しかし老人は首を振り、紅葉の手に一つの小箱を渡してくる。
「お前さんへのプレゼントじゃ。残念ながら、これはお前さんの欲しいモノではないと思うがな。開けてみなさい」
優しく微笑む老人に促され、紅葉はそっと小箱を開いてみた。
そして、やんわりと苦笑する。
「ああ、やっぱり今回もダメじゃったな。お前さんの欲しいモノだけは、どう頑張っても儂には分からん」
「いいえ。素敵なペンダント、ありがとうございます。大切にします」
笑顔で礼を言い、紅葉は星形のペンダントを自分の首へとかけてみせた。
毎年クリスマス・イヴになると、この老人はたくさんのプレゼントを持ってこの保育園に現れる。
そして不思議なことに、全ての園児と保育士の所望するモノを持ってきて、的確に一人ひとりに手渡していくのだ。
ただ一人、紅葉を除いて――。
「あの……やっぱり教えてはいただけないのでしょうか? せめてお名前だけでも……」
「いやぁ。
サンタクロース姿の老人は、もう一人の保育士のために用意したプレゼントを紅葉の手にそっと手渡す。
そして子供たちに陽気な笑顔を向け、「また来年来るから、みんな元気でな」と大きく手を振り玄関を出ていった。
「あ、忘れ物!」
老人のいた場所には、藍色の布が置き去りにされていた。
騒いでいる子供たちを押し分けて、紅葉は慌てて玄関を飛び出す。
しかし、そこには既に老人の姿はなかった。
諦めの溜息を一つ漏らすと、手に持つ布を眺めてみる。
どうやら藍染手ぬぐいのようだ。
よく見ると、生地の端に名前らしき刺繍があるのに気がついた。
漢字で〈守蔵〉と書かれている。
「モリクラ……さん?」
遠く雪の中に消えたサンタクロースへ、紅葉は深くお辞儀をした。
〈
その容貌は、体中が黒く長い毛に覆われた、猿によく似た獣とされている。
人の心を全て見透かし、どんな行動をも予知する特殊な能力を持っている。
――そのため、決して人に捕らえられることはない。
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