覚《さとり》トリ
コノハナサクヤ
序章
第1話 雪の日の出会い
はらりと舞い散る白い氷晶。
一つ、また一つ……暗闇から生まれては落ちていく。
さながら、漆黒の闇を小さな光の欠片たちが集い、くるくると想いのまま踊り狂う舞踏会のように。
やがて、雪は少しずつ勢いを増し、夜空を
「もみじ先生、けーこ先生、雪だよーっ!」
窓から小さな少年が顔を出す。
宝物を見つけたような満面の笑みにつられ、窓辺へと押しかけるたくさんの子供たち。
われもわれもと小さな両手を掲げ、懸命に氷点下の結晶へと腕を伸ばしている。
掴んだ手のひらで一瞬にして水滴へと変わる現象が、子供たちの顔を綻ばせていった。
その背後にエプロン姿の少女が立った。
夜空を見上げた彼女の瞳に、降り出した白雪が映り込む。
ふっと頬を緩め、少女は子供たちの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「本当だねー。じゃあ、もうすぐサンタさんがやってくるね!」
彼女の声に、子供たちは「わぁーい!」と喜びの声をあげた。
すぐに部屋中を目まぐるしく駆け回り始める。
クリスマス・イヴの夜――。
夜間営業中の保育園は、子供たちの声と走り回る足音で溢れかえっていた。
「ねぇねぇ、もみじ先生」
「なあに?」
「サンタさんは、〈サトリ〉なのぉ?」
「ん?
訊き返された園児は、少し困った顔をした。
どう説明しようかと視線を彷徨わせ、懸命に頭を捻っている。
が、思い出したように元気に答える。
「ママがいってたのぉ。いつも結衣の欲しいモノをくれるから、あのサンタさんは〈サトリ〉っていう妖怪なんだって」
「へぇー、〈サトリ〉ってどんな妖怪なの? 結衣ちゃん、もみじ先生にも教えて」
「えっとねー、すごい力を持ってて、みんなの心が聞こえるんだって。だからねー、あのサンタさんは結衣の欲しいモノが分かるんだって」
園児の言葉が終わると同時に、子供たちの間に大歓声が沸き起こった。
この特別な日。
両親の都合でやむなく預けられた子供たちは、家族と共に過ごせないことを心の底では寂しく感じているのだろう。
幼いながらも一生懸命切ない気持ちを押し殺し、両親が迎えに来るのをただひたすら待っている。
けれども、今この瞬間の笑顔は決して嘘ではない。
何故なら――。
玄関から赤と白の衣装に身を包み、白い豊かな髭を蓄えた老人が現れた。
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