第95話 さようなら:廉弥2
「ま……まぁ、子供だし」
口を尖らせると、
そして「そこへ座れ!」と言って、目前に
じっと睨んでくる双眸が恐ろしい。
「お前って、軽い女だな」
音を立てて紅葉の理性は砕け散る。
どうしてこんな奴にそんなことまで言われなくてはならないのだろうか。
「軽いも何もないでしょ!
「じゃあ、俺とも約束しろよ」
紅葉は仰天した。
悠弥と同じように一緒に寝て、一緒に風呂へ入れとでも言うのだろうか。
バカにするにも程がある。一瞬殴ろうかと紅葉は本気で思った。
「違うよ、バカ。あれ」
廉弥は紅葉の後ろにかけてある衣服を指差した。
そこには、まるで西洋の貴族を思わせるコスプレ衣装があった。
黒地の絹に金銀の刺繍が美しく施された、神秘的で品のある長衣。
揃いの
「エリオット様の衣装! どうしてここにあるの? まさか廉弥が着るんじゃないでしょうね!」
「不満かよ」
思い切りぶー垂れる廉弥。
彼の容姿ならきっと似合うだろう。
けれど、彼はオタクでもコスプレ系ではなかったと記憶する。
この衣装を、いったい誰に着せようというのだろうか。
「あいつ、きっと似合うだろうと思って。――何年かかるか分からないけど、みんなで声をかけてみよう。いつか目が覚めるかもしれない。……俺、感謝してるんだ。あいつがいなければ、今ここに、紅葉はいなかった」
紅葉の目から一粒の涙が生まれて落ちた。
廉弥の優しさに感動したのだ。
その様子を見て、廉弥は苦渋の表情を返す。
「……実は少しだけど。俺、あいつの過去を見ちゃったんだ。見なきゃ良かったと思った。あまりに悲惨で、酷くって。あんなに綺麗な髪と瞳をしているのに、どうしてそんな辛い思いをしなくてはいけなかったんだろう。同じ覚なのに、あいつと比べたら俺達はずっと幸せだったと思ったんだ。だから一緒に呼んでやろう。――紅葉、たまにしか会えなくなるのは寂しいけど、これからもよろしくな」
廉弥は優しく紅葉の頬にキスをした。
――眠ったままの黄金の滝。
寂しかった。
あの時、そう静かに囁いた彼の言葉が忘れられない。
たったひとり、孤児院で。
人の心の醜さに耐えてきた彼の孤独を思うと、胸がどうしようもなく締め付けられる。
彼を呼び戻せるのだろうか。
三人の覚と自分が心からそれを望んだならば、叶うのだろうか。
もし目を覚ましてくれたのならば、言いたい言葉がある。
おかえり。
そして――ありがとう。
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