第十二章 雪の日の再会

第83話 星に願いを

 星空を歩く。



 だから歌おう、きらきら星を。



 流星を待ちながら、願い事を考える。


 一つではなくたくさんの願いを。



 欲張りだって言われても構わない。


 願いは多い方がいいのだから。



 あ――。



 けれど、流れる星は速すぎて……。


 願いを声にできなかった。



 そこへ何かが降ってくる。



 ひらひらと。雪のようだけれど少し大きい。


 よく見れば、緑色のうぶ毛が生えている。



 一つを手に取りそっと見てみると、そこには皺に埋もれた顔があった。




 ――そうだ、彼女に約束したんだ。




「梅さん、ごめんなさい!」



 飛び起きたつもりだったが、まったく身体は動いてはいなかった。



 同時に脇腹に激痛を覚える。


 頭もがんがんして、どうにも自分の身体とは思えない。



 まどろむ意識のまま、ここが世に言う天国なのだろうかと考えた。



 真っ白で清潔なベッド。


 広い天井。


 鼻をくすぐる薬品の匂い。



 今までいた場所とはまったく違う。


 しかし、すぐにその考えを打ち消した。



 間違っても天国ではないだろう。



 宇宙空間である可能性の方が遙かに高い。


 これ以上ないくらい至近距離にある顔は、銀河で最強といわれる人物なのだ。



 その生ける伝説の顔には、皺に沿って川のような涙の痕が残っている。



「最初にわたくしの名前を呼んでいただけるとは……」



 梅はゲホゲホと泣いていた。



 その横から天使が顔を覗かせた。



 本当にその言葉がぴったりの可愛らしい男の子だ。


 艶やかな髪には天使の輪が煌めいている。



紅葉もみじ! 俺のこと分かる!?」



 天使の目には涙が溢れていた。



 確かにその涙には見覚えがある。


 スローモーションの映像に出てきた子だ。



悠弥ゆうや、あんたも強かったんだね。びっくりしたよ、格好良くって」



 次の瞬間、紅葉の口からは猛獣のような悲鳴があがった。



 喜んだ悠弥が思いっきり覆い被さってきたのだ。



 全身に走った激痛に大声をあげてしまい、思わず口を押さえた。


 そして上下左右を確認してホッと胸を撫で下ろす。



 やっぱり貧乏は抜けていないようだ。


 少し悲しくなった。



廉弥れんや、泣くな! 気持ち悪い!」



 悠弥の後ろに立つ茶色い髪と瞳へ向けて、紅葉は彼が何かを言う前に叱責した。


 廉弥は慌てて無造作に腕で涙を拭う。



「ひっどいな、紅葉。お前、一週間も寝てたんだぞ」


「えぇ!? 一週間も!? 梅さん、ごめんなさい!」



 驚愕したあとに、紅葉は速効で梅に謝った。



 それから律子りつこ靖彦やすひこがやってきた。



 いつも上品な律子が、ノックなしで駆け込んで来た姿には驚かされた。


 白衣姿で現れた靖彦はやっぱりハンサムだった。



 またまたその後に、家族みんながやってきた。


 父親も母親も、そして弟妹たちも「良かった、良かった」と泣いて喜んでくれた。

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