第73話 善弥

 金髪に青い瞳。白く透き通った肌。


 異国の色彩を色濃く放つその男は、長い髪を後ろで束ね、着物姿で気怠く歩いていた。



善弥ぜんやさん、二人はここにいません」



「それはそうでしょう。私だって、敵対するさとりとはできれば対峙したくない。当然、彼らも同じように考えているのでしょう。……そんなことより、寒いからみんな中に入りましょう。ああ、寒い。首筋がすーすーして、風邪をひいてしまいそうだ」



 善弥と呼ばれた青年は緊張感なく手を振ると、羽織のたもとに腕をしまって屋敷へと戻っていく。



 そんなに寒いのが嫌なのか、束ねた髪をはらりと解き、波打つ金髪を手櫛で梳いた。



「善弥!」



 屋敷の中から白い髭の男が現れた。


 怒りを露わに迫り来る。



 しかし特に気に留める様子もなく、善弥は首を捻ってそのまま傾げた。



「どうしたのですか、そんなに恐いお顔をされて」



 鬼の形相で近づいてくる男に向かって、至極呑気に訊く。



「早く行け!」


「?……どこへ?」



 まったくもって悠悠閑閑とした態度だ。



 男へ質問せずとも言わんとする内容など分かっているくせに口にする。



「中庭だ。二人が強くて普通の人間では歯が立たぬ!」


「二人とも覚ですから当然でしょう」


「お前が行け!」


「嫌です。寒いし」



 しれっと拒否をすると、善弥は横目で視線を合わせ眉根を寄せる。



 そして、顔を真っ赤にして憤怒の形相へと変貌していく男に向かって続けた。



夜霧よぎりさん、覚という存在をそろそろ理解してくださいよ。敵対する覚はそんなに単純に出会ってはいけないのです。お互い心が読めますからね、簡単には決着がつかない。良くて重傷、悪ければ共倒れです。私はちゃんとあなたの家業に力を貸していますし、遠読とおよみの力を持つ覚、確か悠弥ゆうやとかいいましたっけ? その子供だって攫ってきて差し上げたのです。あとはご自分でなんとかしてください」



 面白くなさそうに善弥はサラリと突き放す。



 そんな金髪碧眼の青年に対して、夜霧はわなわなと握る拳に力を入れて怒りを示した。



 が、それ以上強制することはなかった。


 大声で一言だけ指示をして踵を返す。



「悠弥を使う。中庭へ連れて来い。いいな!」



 夜霧の命令が聞こえているのかいないのか。



 寒そうに自分の肩をさすりながら、善弥は屋敷の奥へと消えていった。

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