第62話 十月十日
廊下には巨大な猫が座っていた。
長い尻尾をふわりふわりと左右に動かし、
まるで「待ってたよ」と言わんばかりの態度に、紅葉の頬は緩んでしまう。
時刻は夜の九時。
(確か、九時にリビングへって……)
紅葉が近づくと、フジコは器用に猫手で扉を開き、リビングへと入っていった。
すぐに中から
「げっ、フジコ!」
続いて、フジコの威嚇と攻撃の声も聞こえてくる。
悠弥の悲鳴は最高潮まで高まった。
苦笑しながら紅葉は扉を開けてみる。
真っ暗だ。
「誕生日、おめでとう!」
クラッカーの音と共に照明がつけられた。
悠弥と
紅葉の目頭が急激に熱を帯びていく。
昨日の夜は悲しみの涙をたくさん流した。
もう流石に枯れ果てたと思っていた双眸から、今度は喜びの涙が溢れ出る。
「はい、紅葉。みんなからのプレゼント。紅葉の欲しいものは分からないから喜んでもらえるか分からないけど、俺が代表で選んだんだ!」
自信満々な様子で、悠弥が小さな箱を渡してくる。
銀色に赤いリボンがかけられた洒落た小箱。
「開けてみて!」
元気な言葉に促され、小箱を開けてみる。
小さなペンダントが入っていた。
紅葉はやんわり苦笑する。
「ぶーっ。悠弥の選択、玉砕じゃん。やっぱ俺が秋葉原で選んでくるべきだったなっ」
廉弥が的確なことを言うと、悠弥は「フィギュアなんかオタクの代表格じゃん。格好悪い!」と口を尖らせた。
「紅葉はこっちの方が好みだと思うよ」
千弥は笑って、大きな白い箱を開けた。
丸いバースデーケーキが顔を出す。
ケーキの周りは真っ赤な薔薇で囲まれていた。
「千兄、狡い!」
「そうだ! ケーキで釣るのは反則だ!」
悠弥と廉弥は抗議した。
わーわーと騒ぎ立てている。
その横で梅と律子がケーキを切り分け、靖彦がシャンパンのコルクを飛ばした。
「紅葉ちゃんは未成年だけど今日は特別。主役だからね。ほんの少しだけ飲んでいいよ」
ハンサムな靖彦がウインクした。
「えー、俺は?」
「俺も、俺も!」
悠弥と廉弥の抗議に、靖彦は「二人はダメー」と笑う。
十月十日。
紅葉、十七歳の誕生日は、悲しみの涙で始まり喜びの涙で終わっていった。
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