第24話 怪しい兄弟

「おじゃましました。そろそろ自室に戻ります」



 鼻に詰めたガーゼに血がついてこないのを確かめると、紅葉もみじはソファからゆっくりと起き上がった。


 その視界に二人の兄弟が映り込む。


 廉弥れんやはベッドに座って分厚い雑誌を読んでいて、何故か悠弥ゆうやも自分の部屋には戻らずに廉弥の部屋でパソコンを弄っていた。



「紅葉っていくつ?」



 廉弥の問いに、紅葉ではなく悠弥が答えた。



「十六だって。今年十七になるらしいよ」


「えっ、じゃあ、俺と同い年? ――ふうん」



 廉弥が意味深に笑うと、何故か悠弥は不機嫌になった。



廉兄れんにい、やらしい。最近は年下の方が流行りなんだ!」


「読むなよ、悠弥。お前の方がいやらしい」



 そんな会話を切っ掛けに、わーわーと一気に二人は言い合いになった。


 兄弟はしきりに「読む、読まない」を言い争っている。



「ちょ、ちょっと、よく分からないことで喧嘩しないでよね」



 紅葉の言葉に二人はぴたりと静かになる。


 そして、見つめ合うこと数秒後、何か意思の疎通をしたかのように頷き合った。



「もしかして、俺たちのこと何も聞いてない?」



 訝りながらも紅葉は首を横に振った。


 父親からはこの家の住所しか聞いていない。



 廉弥の問いが何を意味しているのかは分からないが、知っていることがあれば必ず話してくれたはずだ。


 恐らくは紅葉の両親も、この家庭について詳しいことは何も知らないのだろう。



 廉弥と悠弥は黙ったまま、またお互いに見つめ合った。


 数分経過。


 まだ見つめ合っている。



(ちょっとこの兄弟、まさか変な趣味……)



 紅葉が違和感を感じ出した時、廉弥がやっと口を開いた。



「実は……俺たち三兄弟にはちょっとした秘密があるんだ。紅葉は本物みたいだから、知っておいた方がいいと思う」



 なんだろうか、秘密とは。


 それに本物とか偽物とか、わけが分からない。



 ふと思い当たったことがあり、紅葉は質問を投げてみる。



「家政婦さんが次々と辞めちゃう理由ってそれ?」


「……そうだけど、それだけじゃないよ。梅さんだって原――」



 慌てて悠弥は口を塞いだ。


 まぁ、そうだろう。


 なんといっても古い考えの姑だし。



律子りつこさんも梅さんも何も言わないってことは、きっと千兄せんにいの承諾がないんだろうな。俺たちが勝手に話すわけにもいかないから、またの機会に説明するよ」



 勝手にお開きにしようとする廉弥に、



「ちょっとそこまで言っておいて、気になるじゃない」



 紅葉は迷わず食い下がった。


 秘密があると言われて教えて貰えないのは気持ちが悪い。



 兄弟はまた見つめ合う。


 やっぱり長時間見つめ合ったまま動かない。



(気になるって言わなきゃ良かったかも)



 怪しく見つめ合う二人に危機感を覚え、紅葉は激しく後悔した。



「悪い。やっぱり千兄に確認してからじゃないとマズイから。ちょっとの間、気持ちが悪いとは思うけど我慢しておいて」



 本当に申し訳なさそうな顔をして廉弥が謝る。



 意外と誠実なのかもしれない。


 そんな彼に向かって、紅葉は不適な笑いを浮かべる。


 そして、「そのかわり」と言って腕をあげた。



「あれ、触っていい?」



 指差す先にはエリオットのフィギュアがあった。

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