第9話 ヨ……
(うわぁ……)
敷地内に入ると、さらにこの豪邸の優美さが実感できた。
左手にはレンガ敷きの駐車場があり、右手には小さな噴水と様々な花の香りを飛ばす庭園が見える。
その先にはコンサバトリーまであるようだ。
玄関まで辿り着いた
コツコツと遠慮ぎみに二回ほど。
けれど緊張のせいか力が入らずあまり音がしなかったため、すぐにもう一度叩き直してみた。
緊張しながら暫く待つ。
が、返事はない。
そのままさらに暫く待ってみるも、やはり
悩んだ末に、紅葉はそっと扉を開いてみることにした。
鍵は開いていた。
「まずは合格」
ひぃっ、と悲鳴をあげ思わず扉を閉じる。
至近距離に何かの顔があったのだ。
驚くほどにしわしわの顔。
恐らくはお爺さんだ。
有名なSF映画に出てくる老人のような……。
今のは見なかったことにしようと後ずさる紅葉の前で、勢いよく扉が開かれた。
「合格と言ったのが、聞こえなかったのですか!」
老人の叫びに疑問符はなかった。
決定的な叱咤が紅葉を脅えさせる。
同時に、もう一つ恐ろしいことを理解した。
紅葉の胸のあたりまでしかない背丈の老人は、緑色に髪を染め、ピンクの口紅を塗っていた。
さらに恐ろしいことに、その全身はピンクのワンピースに覆われている。
老人はお爺さんではなく、お婆さんだったのだ――。
「ヨ……」
「よ?」
思わず口から出そうになった固有名詞を慌てて呑み込むと、必死で気持ちを整え笑顔を作った。
とにかく家人には早急に挨拶をするべきだろう。
「たっ、大変失礼いたしました。はじめまして。わたし、高木紅葉です! 今日からどうぞよろしくお願いします!」
大きな荷物を持ったまま、紅葉は膝に頭がつきそうなほど腰を折ってお辞儀をした。
そんな彼女を、お婆さんは上から下までじろじろと遠慮無く眺め見る。
暫くして、
「お入りなさい」
幾分嗄れた声で言い、さっさと家の中へと戻っていってしまう。
スタスタと二、三歩進んだあと、くるりと振り返り、「早くしなさい」と叱責した。
(こ、怖いかも……)
前途多難を感じつつ、紅葉は急いで靴を脱いだ。
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