第11話 暗殺とスペースジャックの破綻
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
シュラウド兄弟が部屋で語り合っている頃、ブレディ兄弟は乗下船口の周辺に佇んでいた。
第六惑星エルカズから乗り込んでくる評議会議員ウェルマン・フォーセットの暗殺を企んでいた暗殺者は二人であった。
いずれもヘンショーと名乗る男から依頼されていたが、ヘンショーなる人物の詳細は知らなかった。
彼らは金さえ貰えば背後関係など一切聞かずに暗殺を請け負う輩であった。
彼らは銃器を用いない。
ゴルダという男は毒針を使う暗殺者であった。
ザイツェフという男は超小型の自動機械であるマイクロボットを扱う暗殺者であった。
第一陣のゴルダは乗船口にウェルマン・フォーセットが現れたときに下船口からすれ違いざまに毒針の仕込まれた鞄で狙う予定であった。
ザイツェフはゴルダが失敗した場合に、マイクロボットで寝室に寝ているウェルマン・フォーセットを狙う予定であった。
ウェルマン評議員が乗船口から現れる直前、評議員を警護する者二名が現れ、乗船口周辺の警戒に当たった。
ゴルダは、ウェルマン評議員の姿を乗船口通路の奥に見かけた時に動き始めた。
ゆっくりと下船口へと歩み始める。
そのタイミングは完璧であった。
だが、鞄から毒針を発射した直後、目の前に本を持った若者が飛び出していた。
若者は、本で毒針を遮ると、指でゴルダを指し示し、叫んだ。
「 あいつだ。」
慌てたゴルダは、下船口に飛び込み、逃げようとした。
だが、下船口から通路に入ったところで逃げ場が無いことに気づいた。
毒針は目標の皮膚下に打ち込まれ、毒が回って心臓麻痺を起こさせるはずであった。
外部から見て死因がすぐにわかるような毒物ではない。
したがって評議員の病死または突然死と判断されるはずであり、死因に気づかれないうちに下船口からエルカズのステーションに降り、シャトルでエルカズの地上に降りる手はずであったのだ。
だが、その手はずが完全に狂ってしまった。
仕事に失敗すれば、後は死ぬしかない。
ゴルダは鞄に仕込んだ毒針を自らの肉体に向けて発射しようとした。
だが不発であった。
止むを得ず、手持ちの毒入りカプセルを飲もうとしたが、焦ってしまったのか、飲む前に床に転げ落ちてしまった。
それを拾おうと這い蹲っているところを保安要員に押さえ込まれてしまったのである。
保安要員4名がかりで押さえつけられてはゴルダも動くに動けなかった。
乗下船口周辺は大騒ぎになった。
船内時間で午後3時20分のことである。
事情を聞かれたロバートは、単に男の動作に不自然なものを感じ取ったので、その前に飛び出して手に持っていた本をかざしたら、何かが本に刺さった衝撃を感じたので、当の男を指差し、あいつだと叫んだと証言した。
乗下船口に来ていたのは、別な惑星に着いたので、乗船口から、どのような客が乗ってくるかを見に行っただけだと証言し、妹のアマンダがそれを裏付けた。
特別室フロアにいる人間だけにそれ以上の尋問は断念して、エルカズ・ステーションの警察は犯人を引き取り下船した。
アトラズ124便は定刻から30分遅れてエルカズ・ステーションを出発したのである。
その夜、特別室フロアの廊下で、マイクロボットを見つけたロバートが保安要員にその旨を知らせた。
マイクロボットは暗殺用具として知られていた。
だが、そのプログラムか機能障害を起こし動かなくなったものと判明した。
通常プログラムは使用後に自動消去されてしまうのであるが、このマイクロボットの場合は何故か消去されずに残っていた。
マイクロボットの出発地点がプログラムから割り出され、その地点の防犯カメラから不審人物の割り出しが行われた結果、二等船室のザイツェフが浮かび上がった。
保安要員4名が部屋に赴いたところ、ザイツェフは部屋の中で毒を飲み自殺していた。
マイクロボットは、ドアの狭い隙間から進入し目標人物を自ら選定し、毒針などで死に至らしめるもので、マイクロボットが使命を果たし終えたとき、あるいは一定時間以上使命が果たせなかったときは自動的に発火し証拠隠滅を図るものであり、これまで発見されたものはいずれもプログラムの痕跡すら残っていなかった。
だが、今回はプログラムが丸ごと残っていた上に、機能障害の理由がほとんどわからないにもかかわらず、機能を完全に停止しており、捜査官がその原因について首を捻ったものである。
翌朝、朝食後の船内で更なる一騒動が起きた。
船の心臓部とも言える船橋に4人の男が雪崩れ込んだのである。
通常、客は入れない区画である。
どうした訳か、内部からドアの施錠を解除してしまい、船橋にまで4人の男の侵入を許してしまったのである。
四人の男はそれぞれ、片手に発信器を持っていたが、そのうちの一人が怒鳴った。
「 我々は、プレデス解放戦線のメンバーだ。
この船内には既に爆弾が仕掛けてある。
我々の手元にあるスイッチひとつでいつでも爆発させることができる。
乗客乗員の命が惜しくば我々の要求を聞け。」
船橋内には当直の航宙士らとともに、船長とブレディ兄妹がいた。
ブレディ兄妹は前日に船長に依頼し、船橋を見せて貰うように頼んでいたのだ。
特等船室の船客のお願いということもあり、特段の支障もないので船長許可で見学が許されていたのだ。
ちょうど二人が見学中の出来事であった。
「 このアトラズ124便は我々の指揮下に入る。
以後、超光速通信を含め一切の通信を禁ずる。
アルフレッド、通信装置をすべて切れ。」
アルフレッド航宙士は、通信装置の電源を次々に落とすと、首領格の人間の元へ近づいた。
それから船橋内の皆に向けて言った。
「 聞いただろう。
今からこの船は我々プレデス解放戦線のものだ。
船長、船内放送でその旨を伝えて貰おうか。」
「 アルフレッド、君は一体・・・・。」
「 フン、元から俺は仲間だよ。」
そのときに、片隅にいたアマンダが泣き出して、「助けて」と言いながら、解放戦線のほうへ走り出した。
兄も「待て、アマンダ。」と叫んでその後を追う。
乗組員は皆、恐怖に駆られた娘が逃げようとしていると思ったし、それを抑えようと兄が追いかけていると思った。
解放戦線を名乗るメンバーの誰もがそう信じていた。
だが次の瞬間、発信器を持った四人のメンバーが一瞬にして打ち倒されていた。
二人をアマンダが、残り二人をロバートがただの一撃で打ち倒したのである。
立っているのはアルフレッドと呼ばれる航宙士一人になった。
青ざめたアルフレッドが床に落ちた発信器を拾おうとした途端に、ロバートが首筋に手刀を打ち込んだ。
アルフレッドも、また昏倒した。
ロバートとアマンダは、ハンカチを取り出して、発信器を慎重に拾い上げると、船長に渡した。
「 船長、証拠品ですから大事に預かっていてください。
それから、見学ありがとうございました。
後のことはよろしく。」
そう言うと兄妹二人は悠然と船橋を後にした。
ようやく、ことの重大さに気づいた船長が思わず身震いをしたのはその後のことである。
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