第9話 ダブルデート(2)
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
ラリィの掛け声で水泳のレースが始まった。
最初の一往復ではサブリナの方が早かった。
だが、見ていてサブリナとアマンダの泳ぎの違いが驚くほど良くわかった。
サブリナはかなり無駄な動きが多く、波を立てた泳ぎであるのに対して、アマンダはゆったりと水に逆らわない泳ぎであるために余り波が立たないのである。
多分、この状態では3往復もしないうちにサブリナが抜かれるのではないかと思ったのである。
アマンダが一往復目の手を突いた瞬間に、ロバートとラリィも飛び込んだ。
ロバートとラリィの動きも少し違っていた。
一往復が終わった時点ではラリィが身長分ほどリードしていたが、三往復目には同じになっていた。
それからは徐々に引き離されるばかりであった。
8往復目にかかったときには、かなり疲れてきたラリィに比べ、最初と同じペースで泳いでいるロバートがプールの半分ほどもリードしていた。
9往復の途中ではサブリナが抜かれていた。
結局のところ、10往復を一着で終えたのはアマンダであり、その次にロバート、三位にサブリナ、それから三身長分遅れてラリィが着いた。
遅れて到着したラリィには、拍手と同時に追い討ちの声が掛かった。
「 はーい、今日のおごりはお兄様よ。」
「 うーん、約束だからなぁ。
はい、はい、何でも奢りますよ。」
ラリィは、プールから上がってタオルで身体を拭きながらロバートに尋ねた。
「 君たち、早いなぁ。
泳ぎが実に綺麗だった。
本当はもっと早く泳げるのじゃないのかい。」
ロバートがにやっと笑って頷いた。
「 あのスピードなら、多分、倍の距離を泳いでも大丈夫だろうと思うよ。」
「 じゃ、手加減したのかい。」
「 いや、手加減したわけじゃない。
泳ぐのは本当に久しぶりだからね。
どのぐらいのペースで泳げばいいのかわからなかっただけだよ。
泳いでみて、これなら倍の距離でもいけるかなと思っただけ。
手加減なんかしたら、君たちに失礼だろう。」
「 なるほど、・・・。
ロビー、君はいいやつだなぁ。」
「 何だよ、いきなり・・・。」
「 いや、そういう真摯な態度がねぇ、とってもいいなと思ってさ。
人の心がわかってしまうと疑心暗鬼になってしまう。」
「 だったら、必要以外のことはしなければいい。
無理に読もうとしなければ、読まなくてもいいのじゃないのかな。
君も僕も互いに相手の気持ちが読めないけれど、それで別に困ることはないは
ず、普通の人はそれで生活している。
悩み、傷つきながら必死に生きている。
普通の人になったと思いなさいよ。
そうすれば楽になれる。」
水着姿のウェイトレスが、注文を取りに来た。
四人がそれぞれにソフトドリンクを頼んだ。
「 ロビー、ちょっと話があるんだけれど、あっちのカウチに行かないか。」
「 ん、何だい。
女の子の前じゃ話せないことか?」
「 うーん、まぁ、そんなようなものだ。
頼む。」
「 しょうがないね。
付き合ってやるか。
男を眺めているより、可愛い女の子を眺めている方がいいんだけどな。」
「 おいおい、僕だって、同じだよ。
まぁ、悪い友達を持ったと思って少しの間だけ我慢してくれよ。」
二人して少し離れたカウチに移動し、寝そべる。
「 それで、何だい。」
「 うーん、二つ確認したいことがある。
一つはお前さんのこと、もう一つはアミーのこと。」
「 ふーん、それで・・・?」
「 どちらも同じ内容だが、誰か好きな人はいるのか。」
「 ん、好きな人って、何だ・・・。
恋愛対象がいるかということか?」
「 うん、教えてくれないか。」
「 アミーのことなら理由はわからないでもないが、何で、ラリィが俺の恋愛対象
を気にするんだ。」
「 それがだなぁ、・・・・。
実はお前のことを・・。
リナが好きなんだ。
だから、確認して欲しいって。
恋人とか、本当に好きな人がいるなら多分諦めるんだろう。」
「 何だ、そんなことか。
見合い話なら腐るほどあるが、今のところ特定の決まった人はいない。
それはアミーも一緒だ。
この返事で良いのか。」
「 本当か?
本当なんだな?」
「 ああ、僕は嘘をつくのは嫌いだ。
だから友達の誼で教えといてあげる。
アミーが最初にお前さんに会った時の第一印象は素敵な男性だそうだ。
だから、少なくとも嫌われてはいない。
安心しろ。
但し、遊び半分で付き合うようだったら絶対に僕が許さないからな。」
「 おう、それを聞いて勇気百倍だ。
ところで、ロビーはどう思ってるんだ?
リナのこと・・・。」
「 ん、・・・。
嘘はつけないな。
可愛い子だと思ってるよ。」
「 それは、・・・恋愛対象として可能性があるということか。」
「 さて、それがわからない。
自分自身でもわからないんだから幾ら聞かれても返答の仕様がない。
時の流れに任せるしかないと思ってる。
好きか、嫌いかと、聞かれたら好きだと答えるだろうが、・・・。
ラリィ、そう言う意味ではお前さんも好きだよ。
だから、それが男女の愛かどうかは良くわからない。
そいつは、むしろ年長者のラリィの方が僕に教えてもいいぐらいだろう。」
「 はは、こりゃ参った。
だけどね。
残念ながら、僕には女性経験がない。
恥ずかしながら、24にもなってまだ童貞だ。
正直なところ別に恥だとは思っていないけれどね。」
「 それは、同感だな。
好きでもない女を抱いて童貞を捨てたいとは思わないし、単に好いた好かれた
で女を抱いていたら発情期の猫や犬と一緒だと思ってる。
父の影響も多分にあるだろうけれど、僕は、自分の伴侶にすべき女でなければ
抱くつもりはない。」
「 そいつは、ちょっと厳しいなぁ。
例えば、今晩にでもリナがお前さんのベッドに忍んでいったら、拒絶するわけ
かいな。
それは傷つくぞ。」
「 そのときになって見なければわからないけれど、多分お尻を叩いて追い出す可
能性が大だな。
さっきも言ったが、リナのことは嫌いじゃない。
むしろ好きだと言ってもいいだろう。
だからすぐ抱けるとは思えないんだ。
リナだって同じだ。
軽率に男に抱かれるべきじゃない。
一生を添い遂げる自信があるならそうしてもいいかもしれないがね。
少なくとも昨日あったばかりの男のベッドに忍んで行くような女だとは僕は思
いたくない。
第一、ラリィにしろリナにしろ、どれだけ僕らのことを知っているんだい?
そんな状態で色恋を語るのは早すぎるだろう。
正直言って僕もまだリナのことは良く知っているわけじゃない。
だから、時の流れに任せるべきだと言ったんだ。」
「 フーン、やっぱり、ロビーは年相応の考え方をしていないな。
けなしているんじゃないぞ。
むしろ誉めているんだけれど・・・・。
今の若い連中はね、どちらかというと刹那的、享楽的な考え方をしている。
今生きているこの瞬間が良ければいいという考え方だ。
将来の生活設計も何もありはしない。
そのためには処女も捨てるし、童貞も捨てる。
結婚を考えて女を抱くんじゃない。
まさしく犬猫の発情期と同じだよ。
良かれと思う相手がいれば誰とでも寝る。
そうしてそれが自由な恋愛だと信じてる。
まぁ、定義を変えてしまえばそれも恋愛なんだろうけどね。
こうした考えの自由恋愛がまかり通れば、乱交と同じだ。
子供が生まれたって誰の子だかわかりはしない。
近親婚が許されてはいないから、まだ、節操を保ってはいるものの、実際には
無いと同じだろう。
結婚自体が意味のあるものとして捕らえられない世代になりつつあるかもしれ
ない。
だが、僕はそうした考えには賛成できない。
僕は宗教を信じていないから必ずしも結婚が神聖なものだとは考えていない。
ただ、人類の長い経験を通して結婚という制度が、一番いい制度として残され
たんだろうと思っている。
そうでない掟や風習は長い歴史の中ですべて葬り去られた。
どこかに悪い部分があったからだ。
今ある風潮が存続するのか一時的な流行病なのかそれは僕にはわからないけれ
ど、少なくとも自分の信念は貫きたいと思ってる。」
「 そこはね、僕も同じだよ。
愛にはいろんな形があってもいいとは思うけれど、子供や周りを不幸にする愛
はやはりどこかおかしいんだ。
それを自由恋愛などという言葉で誤魔化すのは卑怯だよ。
少なくとも男なら女を抱いた以上はその責任を取れと言いたいし、女なら抱か
れて子供を生む自信が無ければ抱かれるなと言いたい。
避妊はできるかもしれないが、セックスはやはり子供を生むためにあるものだ
と思っている。」
「 ロビー・・・。
リナに、伝えてもいいかな。」
「 何を?」
「 ロビーが言ったことで確実な話だけ・・・。
ロビーには決まった人はいないこと。
ロビーはリナに好感を抱いていること。」
「 構わないが、・・・。
余り世話を焼きすぎない方がいいと思う。
それと、リナに過大な期待を抱かせないようにして欲しいな。
さっきも言ったが、僕自身がわからない部分が多い。
多分、リナもラリィもそうだろうけれど、意識の読めない異性に出会ったのは
初めてだろう。
その中では、恋に恋してはいけない。
自分が好きだと思う男性あるいは女性のどこに惚れたのか、より明確にすべき
だし、相手がどんな男性あるいは女性であるかを見極めるべきだ。
それがわからないまま感情に溺れたらどちらも不幸になる。」
「 わかった。
ロビーの言葉をそのまま伝えよう。
多分、ロビーの言うことが正しいのかも知れん。
だが、ある意味では厳しい言葉だな。
よし、取りあえずの話は終わった。
あ、ちょっと待ってくれ。
もう一つあった。
コマーシャルだ。
リナのいいところを宣伝しておかなくちゃならん。」
「 駄目だよ。
手前味噌じゃ。
リナのいいところが何なのかは自分の目で確かめる。
ついでに悪いところがあるのかもどうかもね。
それが時の流れに任せると言う意味で、決して無駄に時を過ごすと言うことじ
ゃない。
ラリィもそう言う目でアミーを見て欲しい。」
真摯なロバートの目を暫く見ていたラリィがやがて言った。
「 わかった。
約束する。
話は終わりだ。
僕も、ロビーの顔じゃなく、アミーの顔を拝みたいよ。」
長い話であったが互いに理解し合えた二人は、妹たちのところへ戻った。
四人でわいわいとはしゃぎながら午前中のデートは終わった。
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