第8話 ダブルデート(1)

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)


 自分たちの部屋に戻ったシュラウド兄妹が顔を見合わせて発した言葉は同じだった。


 「 信じられない。」


 間髪をいれずサブリナが言った。


 「 ねぇ、お兄様、世の中にあんな素敵な男性がいるなんて、私、本当に信じられ

  ないの。」


 「 ああ、僕もだ。

   ロビーも確かにいい奴だが、妹のアミーの笑顔を見たかい。

   僕は一目惚れって言うやつを信じてはいなかったが、あの娘にはとことん参っ

  ちゃったよ。

   だけど、あんな娘だもの誰もがほっとくわけがないよな。

   誰か好きな男がいるんだろうか。」


 くるくる回りながらソファに倒れこんでサブリナが呟く。

 「 そうよねぇ。

   あんな男性、誰だってほうっておくわけないわよねぇ。

   ロビーにも誰か好きな人がいるのかしら。

   私もね。

   一目惚れなの。

   だからそんな女の人がいるかどうか確かめたくて意識を読もうとしたら・・。

   駄目だった。

   だから、余計に気になるの。

   ねぇ、お兄様、明日はできるだけ、アミーから好きな人がいるかどうか聞いて

  あげるから、お兄様もロビーにそれとなく聞いてよ。

   誰か好きな女の人がいるかどうか。」


 「 兄妹揃って、向こうの兄妹にめろめろかぁ。

   仕方がない。

   ここは共同戦線を張ろう。

   今の件は了解だ。

   同時にできるだけ、僕のこともアミーに吹聴してくれないか。

   僕は、ロビーにリナのことを吹聴しておく。

   ただね、・・・。

   ロビーもアミーも年齢以上に随分と大人だよ。

   ただの遊び友達気分では相手にしてもらえないかもしれないぜ。

   正直言って、リナはどこに出しても恥ずかしくない美人の妹だと思っている。

   だけど、あの二人は揃いも揃って美男美女だ。

   だから、その分、目は肥えている。

   ロビーが言っていただろう。

   美人は見ていて楽しいが、中身が大事だって。

   リナ、お前もロビーに好いて貰いたかったら内面を磨かないと振られちゃうこ

  とになるぞ。」


 「 だってぇ、・・・。

   いまさら、どうすればいいのよ。

   試験の前の一夜漬けでもあるまいし、そんなに簡単に自分の内面を変えられ

  るわけないでしょう?

   私は私、地で頑張るしかないわ。

   それで、気に入って貰えなければ、諦めるしかない。

   ああん、・・・。

   こんな日が来るなんて思っても見なかったわ。

   今までは媚を売る男たちをどうやって追い払うかを考えていたのに・・・。

   媚を売る羽目に陥るなんて・・・。

   ううん、私は媚を売りたくない。

   ロビーに安っぽい女だと思われたくないもの。

   私が言い寄る男を振ったのは、その魂胆が見え透いていたからよ。

   シュラウド家の娘という私の肩書きと、私の身体だけを求めている男とわかっ

  て付き合うなんてできなかった。

   でも、彼は違うわ。

   22にして億万長者、シュラウド家の財産を狙う必要もない。

   あるとすれば、私の身体だけれど、・・・・。

   どうなんだろう。

   彼の心を覗いてみたい。

   まったく関心がないのか、それとも興味を示しているのか。

   それとも、それとも、やっぱり私の身体が欲しいのかしら。

   欲しがらなかったら嫌だし、欲しがられても嫌。

   ねぇ、お兄様・・・。

   私、どうしたらいいのかしら。」


 「 おいおい、リナ、僕だって男なんだぜ。

   そんなこと聞くなよ。

   僕だって、男としてアマンダを抱きたい。

   だからと言って、アマンダの身体だけを狙っている男に見られたくはないよ。

   どうしたら、そうじゃないってわかって貰えるかなぁ。」


 「 私だって、そんなことわからないわ。

   今までは相手の男の心が見えていた。

   だから自分の意志も簡単に決めることができたわ。

   でも、でも、心の見えない男とどうやって付き合えばいいのかわからない。」


 何とも悩み多き兄妹である。

 彼らにとっては初恋同然の相手であった。


 この二人にしても、かつて恋心を抱いたことは幾度も合った。

 だが、何かの折に身体の一部が触れただけで、相手の底意が見えてしまい。

 燃え上がるような恋などの経験はない。


 幼い恋はあった。

 互いに純真なままの単に好きだよという感情である。

 だが思春期を迎える頃には、彼らには打算が渦巻く相手の感情を見すぎるほど見てきたのだ。


 それでは男女の恋に陥るはずがない。

 二人は初めて恋のジレンマに陥った。

 失恋するかもしれない恐怖を味わっていたのである。


 それが余計に相手を慕う感情となって吹き上げてくる。

 適齢期を迎えた男女にとって好ましいと思われる異性を求める感情は抑えがたいものがある。


 そうした激情の中で真実の愛に出会うこともあれば裏切られることもある。

 だが、二人は余りにも金に群がるような業腹な男女を見すぎてしまっていたし、自ら自分に群がる男女を切り捨ててもいた。

 それが余計に恋に陥ることに臆病にもなっている。

 愛する者と会う約束さえも、ある種の恐怖を抱かせるのである。



 翌朝、9時半にプールサイドに若い四人が集まった。

 このプールは上級船室専用のプールであり、プールサイドで人工日光の日焼けを楽しむ若干の人はいたが若い男女はシュラウド、ブレディの両兄妹だけである。


 ラリィとサブリナは待ちきれずに三十分も前に来ていた。

 10分前になってようやくブレディ兄弟が現れた。


 二人ともガウンを羽織っているが、アマンダのすんなり伸びた足は隠しようもないし、程よく筋肉の付いたロバートの足も同じである。

 二人は気軽に声をかけてきた。


 「 ハーイ、ラリィ。」


 アマンダの声である。


 「 ハーイ、リナ。」


 何の変哲もない挨拶なのに、ラリィとサブリナにはうれしい挨拶だった。

 一緒に「ハーイ」と陽気な返事を返していた。


 二人とも正直なところ、昨晩は遅くまで寝つけなかったのである。

 いろいろとあれこれ考え、寝返りを打って過ごした時間が長かった。


 二人に近づくと、ブレディ兄弟は示し合わせていたように流れるような動作でガウンをカウチに脱ぎ捨てる。

 極自然な姿だが、シュラウド兄弟にとっては忘れられない一瞬であった。


 リナにとっては眩しいほどの男の裸体があった。

 ロバートのそれは鍛えられた者だけが持つ筋肉美があった。


 決して、ボディビルや筋肉増強剤を使って作られた筋肉ではない。

 何かはわからないが実際に動かしてみて初めて造られる筋肉の造形美である。


 上半身は逆三角形を呈し、臀部は引き締まって小ぶりである。

 腕についている筋肉は昨日倒された男たちの方が余程太くたくましいはずだが、無駄な動きを一切感じさせない。


 一方、ラリィにとっては魅入られそうな見事なスタイルがそこにあった。

 セパレートタイプの水着は、決して露出が多いものではない。


 むしろ中年のおばさん連中が好んで着そうなものであるはずである。

 だが、アマンダが着たそれは全く別物であった。


 引き締まったウエストを強調し、巨乳と呼ばれる女性と比べたら見劣りするかもしれないが、大きく張りのある形が良くわかり、しかも驚くほど真円に近い状態を保っている。


 多分ブラジャーを外してもそのまま形を保つだろうと思われる。

 臀部から脚部に至るラインが見事であり、しかも綺麗な股間のラインが男心をかき乱す。


 非常にグラマラスなボディであり、ファッション雑誌から抜け出てきたモデルのようである。

 傍にたたずむロバートと比べて如何に女性らしい体型をしているかが良くわかる。


 昨日の動きを見る限り、もしかすると、彼女の全身も筋肉が発達しているのかもしれないが、外見上は全くわからないのである。

 そのたおやかな女性が昨日のような動きで一瞬にして巨漢をけり倒すとはどうしても考えにくかった。


 「 じゃ、泳ぐかい。

   それとも日光浴しながらのおしゃべりかな。」


 ロバートに言われてはっとした。


 「 よーし、じゃ、このプールを10回往復。

   このプールは25レルレーベだから、10回往復で5レーベになる。

   短距離では多分負けそうだから、長い距離ではどうかな?

   負けた人は全員にソフトドリンクを奢ること。」


 ラリィが提案するが、サブリナが反対した。


 「 駄目よ。

   男女では力の差が歴然としているわ。

   プレデスの水泳競技会でも男子の方が絶対にタイムが良いもの。

   ハンディを貰わなければ駄目よ。」


 それではとロバートが提案した。


 「 じゃぁ、アミーとリナの両方が一往復したら僕らがスタートというのはどうか

  な。」


 ロバートが言うならば仕方がないとサブリナも納得する。

 これは少なくとも40秒以上のハンディになる。


 だが頭を掻いたのはラリィである。

 ロバートとアマンダの実力は知らないが、少なくともサブリナとのレースでは5レーベで40秒もの差をつけたことはない。


 こいつはかなりきついことになりそうだと思いながらも、ラリィは承諾した。

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