第7話 事後処理

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)


 ロバートがラウンジのウエィトレスに声をかけた。


 「 おーい、ウェイトレスさんたち、保安要員に電話をしてくれるかい。

   暴漢4名が上級ラウンジに現れて、取り押さえられたって言ってくれる。」


 至って呑気な口調であるが、それではっと気づいたウェイトレスが、慌てて船内電話で通報を始めた。

 すぐにも保安要員が駆けつけたが、駆けつけた保安要員の方がむしろ驚いた。


 巨漢4人が、床でのた打ち回り、あるいは、完全に意識のない状態であるのだ。

 その周りには4本のサバイバル・ナイフと思われる大型ナイフが落ちている。


 「 一体これはどうしたことですか?」


 止むを得ずロバートが説明する。


 「 僕は、ロバート・ブレディ、こちらは僕の妹アマンダ・ブレディ。

   それから、そちらが僕の友人、ラリィ・シュラウドさんに、妹さんのサブリ

  ナ・シュラウドさん。

   僕ら四人がここで歓談していたところに、この男たちがやってきてシュラウド

  兄妹に話があるから一緒に来てくれと言い、ラリィが再三断ると、急にリナ、い

  やサブリナにナイフを突きつけようとしたので、僕がそのナイフを叩き落すつも

  りで腕を手刀で叩いたら、腕が折れちゃったみたい。

   少し強く叩きすぎたかな?

   それで、おとなしく帰れと言ったんだけれど、この人たち帰るつもりも全然な

  くって、残った三人がナイフで向かってきたので止むを得ず、一人は背負い投げ

  で床に叩き付けた。

   一人は妹のアマンダが首筋を蹴飛ばして倒しちゃった。

   もう一人は、ひるんだ隙に僕がナイフを持った手を逆ひしぎにして抑えるつも

  りが、多分興奮していたんだろうねぇ、力を入れ過ぎて肘の間接をはずしちゃっ

  たみたいだ。

   何の話かは知らないけれど、シュラウド財閥の御曹司とご令嬢をナイフで脅し

  てまで無理やり連れ出そうとしたんだから、よっぽどのことを企んでいたのじゃ

  ない?

   それに、この人たち、本来はここに来れない人たちじゃないのかな?

   特別船室でも一等船室でも見かけない人たちだと思うけれど。

   少なくとも夕食の際には上級食堂にいなかった人たちですよ。」


 「 シュラウドご兄妹、今の話に間違いはないですか。」


 保安要員が尋ねると、ラリィが言った。

 「 ああ、間違いないよ。

   ロビー、いや、ロバートの言った通りだ。」


 「 わかりました。

   後はこちらで調べます。

   場合によっては、後で、もう一度お尋ねすることがあるかもしれません。」


 保安要員はそう言うと手帳型の端末を開いて何事かを確認していた。


 「 シュラウドご兄妹様、ブレディご兄妹様ともプレデスまでのご搭乗ですね。

   良かった。

   少しは余裕がある。

   いずれにしろ、船内の防犯カメラ全てをチェックしてみます。」


 「 あ、それは証拠品のナイフですから指紋に気をつけてください。

   少なくともここにいる四人は誰も触っていませんから。」


 保安要員は怪訝そうな顔をして言った。


 「 あの、失礼ですが、ロバート様は警察関係の方ですか?」


 「 いいえ、ただの映画好きな男なだけです。」


 保安要員たちは、暴漢四人を担架に乗せて運び去った。

 ラウンジの中はまた閑散となった。

 改めて座りなおしたロバートとアマンダを、シュラウド兄弟がまじまじと眺めている。


 それからラリィがひとつ大きな息をして、言った。


 「 今のは、夢じゃないのかと疑うほどだよ。

   僕もリナも多少のスポーツはやっているから体力にはそこそこ自信があったの

  だけれど、・・・。

   今の君たちの真似は逆立ちしてもできない。

   腕を手刀でへし折るなんてこと普通じゃできないぜ。

   それもあの巨漢だ。

   腕の太さだって並大抵のものじゃない。

   上腕なんかリナやアミーの腰周りほども有りそうだった。

   それに、あのでかい図体の男を凄い勢いで投げ飛ばし、もう一人の腕の関節も

  外してしまうなんて。

   もう一つ驚きはアミーの足蹴りだ。

   アミーが飛び上がって蹴飛ばしたあの高さ・・・。

   少なくともアミーの身長以上の高さだった。

   尤も見えたのはアミーの白い衣装が飛び立ったように見えただけだったけれど

  ね。

   目の前で見ていたのに、・・・とても現実とは思えないよ。」


 サブリナが続ける。

 「 そう。

   驚きを通り越して、唖然としちゃった。

   それに、4人を伸しちゃった後、何か起きたかいと言うような平然とした顔を

  しているんだもの。」


 ラリィが尋ねる。


 「 一体、君たちは何者だい?」


 「 見ての通り、極普通の20代の男と女だよ。

   ラリィやリナとさほど違いはないよ。

   ただ、少し武道をやっていたからね。

   それが役に立っただけ。」


 「 武道って言ったって、こんな実戦的な武道は見たことがないよ。

   一体どこで習ったの。」


 「 そうだなぁ。

   主として僕の父かな。

   元軍人だからね。

   それに兄弟姉妹たち。

   喧嘩はしたことがないけれど、試合になれば本気でかからないとこっちが伸さ

  れちゃうからね。」

   サブリナが再度尋ねる。


 「 じゃぁ、アミーとも試合をしたりするの。」


 「 ああ、小さいころは頻繁に、でも最近はやっていないね。」


 呆れ顔でラリィが言った。


 「 まぁ、君たちには色々と秘密がありそうだけれど、余り詮索はしないようにし

  よう。

   いずれにしろ、君たち二人は僕たちの命の恩人だ。

   プレデスの予定はどうなっているの。

   今後とも付き合いたいけれど住所も知らなければ電話番号も知らない。

   何か連絡方法を教えてくれよ。

   両親に知らない人に助けられました。

   お礼はできませんなんて言えないよ。」


 ロバートはくすっと笑いながら言った。

 「 君たちはドラプレデスに住んでいるんだっけ、暫くはドラプレデスに滞在する

  予定だから、落ち着き先が決まったら必ず連絡をするよ。

   当面はホテル住まいになるだろうけれどね。

   今回の件も含めて、ほかにも面倒が起きそうだから、どうせどこかへ行きたく

  ても足止めされると思うから。」


 「 それは、・・・。

   さっき言っていたほかの物騒な連中のことかい?」


 ロバートは小さく頷いた。


 「 だったら、家に来てほしいわ。

   お父様やお母様にも会っていただきたいし、・・・。」


 「 そうだよ。

   ホテルなんかよりは僕たちの家に泊まって欲しい。

   君たちとは色々と話もしたいし、もっとお近づきになりたい。」


 ロバートとアマンダは暫く顔を見合わせていたが、やがて、ロバートが言った。


 「 わかった。

   では、お言葉に甘えよう。

   ただし、ご両親の了解が得られたならね。

   どこの馬の骨ともわからない者を家に入れるのは、ご両親としては困ると思う

  よ。

   若い男女の場合は特にね。」


 「 何を心配しているのかわからないけれど、僕らの両親に限ってそうは言わない

  はずだ。

   むしろ、不断からたまにはボーイフレンド、ガールフレンドの一人も連れてき

  なさいと焚きつけているぐらいなんだから。」


 「 それはね。

   君らが相手の意識を読むことができるから・・・。

   お父さんもそれを知っているから、そう言うかもしれない。

   けれど、意識を読ませない相手が出てきたら、お父さんはきっと心配するだろ

  うな。

   それと、・・・・。

   お母さんは、君たちの能力を知らないのじゃないの。

   だから、お年頃になっても余りボーイフレンドやガールフレンドを連れて来な

  い君たちに、敢えてそう言う風に言って焚きつけている。

   それは年頃の娘や息子を抱えた母親の心配から来ている。

   でも、できたらできたで、また、心配をするはずだよ。」


 一瞬、虚を突かれたように押し黙ったが、やがてラリィが言った。


 「 確かに母は一族の秘密を知らない。

   仮に知ったら多分ショックだろうね。」


 「 一時的にはね。

   でも、君たちの産みの母親だろう。

   多分、すぐに立ち直れるよ。

   一生知らないで済めばいいけれど、・・・。

   いずれどこかでばれる。

   単なる予感にしか過ぎないけれどね。

   さて、今日のところはこれぐらいで引き上げないかい。

   明日と言う日もあるよ。」


 「 そうだね。

   でも、明日また四人で会おうよ。

   リナ、どこがいいかな?」


 「 うーん、じゃ、もしよければ午前中はプールで会いませんか。

   それから午後は、リハーサルを兼ねて音楽室を借り切るの。

   あそこなら、楽器は何でも揃っているはずだし、邪魔はされないわよ。」


 「 いいよ。

   ただし、午後は三時までにしてくれないかな。

   明日の午後三時以降はちょっと二人で動かなければならないかも知れないんで

  ね。」


 「 ひょっとして、さっきの物騒な連中の話しかい?」


 「 うん、まぁ、そんなところ。」


 「 まるで秘密の玉手箱だな。

   まぁ、僕らが付きまとっちゃ足手まといになるかもしれないから・・・。

   邪魔はしない。

   でも、僕らの助けが必要な時は何でも言ってくれ。」


 「 ああ、そのときは遠慮なくお願いするかもしれない。」


 「 わかった。

   じゃぁ、明日の朝9時半プールへ集合。

   午後は1時に音楽室へ集合だ。

   二人ともきっと来てくれよ。」


 「 わかった。

   間違いなく行くよ。

   じゃぁ部屋へ戻ろう。」


四人は連れ立って特別室のフロアへ向かい、通路でお休みを言って別れた。

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