第6話 誘拐未遂

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)


 やがて、四人はラウンジの入り口についた。

 男はシュラウド兄妹を含む四人がラウンジに入ってゆくのを見届けると、中には入って来ずに立ち去った。


 ロバートとアマンダは、引き続き男の思考を追い続け、警戒していた。

 夕食直後ということもあってラウンジの中は閑散としていた。


 このラウンジそのものが一等船室と特別船室の客のみが使える場所であり、二等船室以下の客は使えない場所になっている。

 バックミュージックが静かに流れる中で、四人はソフトドリンクを頼み、ソファに座った。


 「 ロバートさん、大変失礼なことをお聞きすることになるかもしれないが宜しい

  ですか。」


 「 ええ、構いませんよ。

   どうぞロビーと呼んでください。」


 「 では、ロビー、私のことはラリィと呼んでください。

   あなた方お二人には何か特別な力がありますか?」


 「 フーム、・・・・。

   質問にお答えする前に、逆にお聞きしましょう。

   ラリィ、貴方には私たちのオーラが見えますか?」


 「 え?

   その、・・・オーラと言うのは何でしょうか?」


 アマンダが補足説明をした。


 「 私のことはアミーと呼んでね。

   オーラは、光背とも呼ばれるもの。

   宗教ではカリズ教などの絵画や十字架にそのようなものが描かれたりしていま

  す。」


 「 ああ、・・・・。

   見たことはありますが、私たちはカリズ教徒ではないし、宗教は特に信じてい

  ません。」


 「 それは私たちも同じだけれど、・・・。

   うーん、なんと言えばいいのかしら・・。

   能力のある者が見ればその人に何か特別な力があるかどうか、あるいはどのよ

  うな心理状態にあるか、場合によっては病気かどうかがわかるの。

   人の周囲にある放射エネルギーなの。

   ある意味では生命エネルギーと言ってもいいかもしれない。

   極僅かだけれど、植物にもオーラがあるから。」


 「 で、ロビーやアミーにはそれが見える?

   あ、私はリナと呼んで。」


 サブリナが怪訝そうな顔で尋ねる。


 「 そう僕たちには見える。

   だから貴方たちが何か特別な能力を持っていることがわかる。

   でも、ラリィやリナには僕らのオーラが見えない?」


 シュラウド兄妹が揃って頷いた。


 「 多分、貴方たちの能力の高さから見て、多分間違いなく見えるはずなのだけれ

  ど、やり方をあるいは力の使い方を知らないだけだろうと思う。

   たとえば、リナは相手に直接触れることで相手の意識を読むことができるのじ

  ゃないの?

   で、さっき、僕の手に触れてみた。

   この人は何を考えているのかなって・・・。」


 リナは心持ち青くなったようである。

 「 でも、何故かまったく読めず、むしろ撥ね付けられたように感じて驚いた。

   少なくともこんなことは初めてだったはず、違うかい?」


 リナはコクンと頷いた。


 「 それから、そのことをラリィに言葉ではなく直接思念で届けた。

   それで、ラリィも驚いた。

   僕の推理は違うかな?」


 ラリィが驚いたように言った。


 「 そのとおりだ。

   でもどうしてそんなことが・・・。」


 「 二人の動揺を見ればおおよそは推測できる。

   僕らも君たち二人が特殊な能力を持っていることは乗船したときにすぐに気づ

  いた。

   君たちのオーラはかなり大きいからね。

   むしろ隠すほうが大変だと思う。

   それでね、さっきのラリィの質問に答えよう。

   僕ら二人も特別な能力を持っている。

   君たち兄妹のように、思念で会話もできるし、人の意識も読むことができる。

   君らと違うとすれば、手を触れずに、この場に座ったままでこの船の中にいる

  全員の意識を読むこともできる。

   ただし、例外は君たち二人。

   君たちの思考はそのままでは読めない。

   ある意味で君たちの思考はシールドされているから、それを破らなければ読め

  ないんだ。

   あるいは力づくで読むことができるかもしれないが、普通、余程止むを得ない

  場合以外、僕らはするつもりはない。

   同じようにリナが僕の思考を読もうとしたときにシールドに邪魔されて読めな

  かった。

   そうして、多分、今の君たちには僕のシールドを破るほどの力は、今はないは

  ずだ。

   どう、これでラリィの疑問は解けたかい。」


 「 ああ、わかった。

   だが、こんな話は聞いたことがないよ。」


 「 ご両親のどちらか、それとも祖父母のどちらかな?」


 「 うん、・・・・。

   父だ。

   それにお祖母様。」


 「 君たちに従兄弟はいないの?」


 「 母方の従兄弟はいるが、父の兄弟は幼い時に亡くなっている。」


 「 お祖母様に兄弟はいなかったの?」


 「 お祖母様は一人娘だった。

   お祖母様に従兄弟がいたかどうかは知らない。」


 「 じゃ、一族の秘密を知っているのは、君たち二人とお祖母様それにお父さんだ

  けと言うわけだ。」


 「 多分そうだと思う。

   もっともたった今、ロビーとアミーに見破られてしまったけれどね。

   君たちの一族はたくさんいるのかい?

   そのう、・・・君たちのように特別の力がある人が・・・・。」


 「 僕たちの兄弟姉妹は全員、両親、それに甥っ子かな。

   もうすぐさらに姪っ子か甥っ子が増えるけれど。」


 「 お祖父様やお祖母様は?」


 「 僕らに、父方のお祖父様やお祖母様はいない。

   いたのだろうけれど、少なくとも会ったことはない。

   母方のお祖父さま、お祖母さまに力はないようだね。」



 「 兄弟は何人くらいいるの。」


 「 驚いちゃ困るけれど、兄弟姉妹合わせて14人かな。」


 「 うわ、そんなに?

   ロビーとアミーは一体何番目なの?」


 「 僕は、順番からいうと5番目、アミーは6番目だ。」


 「 一体、君たちはプレデスのどこに住んでいるの。」


 「 うーん、それは・・・。

   今のところ言えない。

   君が唯一無二の親友だとしても今の段階では言えないんだ。

   ごめん。」


 「 そうか、誰にでも秘密はあるものね。

   それはあきらめよう。

   だが、友達にはなってくれるかい。」


 「 それは、お安い御用。

   というより、こちらからも是非お願いしたい。」


 「 さっきはぼかしていたけれど、一体、小惑星帯で幾ら儲けたの。」


 「 ・・・・。

   誰にも、内緒だよ。

   二人の財産併せると、今現在は70億を少し超えている。」


 「 えーっ、なな・・・。」


 大きな声を上げかけたサブリナであったが、自分で気づいて慌てて声を落とした。


 「 70億って、もちろん単位はゼルよね?」


 「 そう、ちょっと使い切れないだろうね。

   新造の恒星間宇宙船でも楽に買える金額だ。」


 「 うーん、因みにシュラウド家は財閥と言われているけれど、家の資産かき集め

  てもそれだけあるんだろうか?

   少し疑問だな。

   じゃ、一人が35億・・・。」


 「 そう、だから、シュラウド家の財産目当てに友達になりたいって言ってるわけ

  じゃないことがわかったでしょう。

   友達ついでにもうひとつ教えてあげる。

   この船に乗り込んだときに物騒な客が何組かいるのに気づいた。

   そのうちの一組は、ラリィとリナを狙ってる。

   誘拐して家に身代金を要求するつもりらしい。

   要求額は二人合わせて500万ゼルの予定。」


 「 嘘だろう。

   小さな子供ならともかく、大の男と女を捕まえて誘拐するなんて常識はずれに

  もほどがある。」


 「 そうだろうね。

   大人を誘拐すれば必ず顔を知られて危険な存在になる。

   だから、彼らは誘拐して金だけ受け取ったら、君たち二人を生かして返すつも

  りはない。」


 「 でも、この動いている船の中でどうやって誘拐なんぞするつもりなんだ。」


 「 次の寄港地で荷物と一緒に降ろしてしまうつもりらしい。

   いろいろと船のセキュリティに詳しいやつが一人いてね。

   そいつが、本来なら出入りできない場所にも仲間を出入りさせることができる

  みたい。

   さっき、食堂の出口付近にでかい男がいたけれど気が付いたかい。」


 シュラウド兄妹は二人揃って首を横に振った。


 「 そう、間もなくここへやってきそうな雰囲気だけれど、ラリィにリナ、君たち

  は何か武道はやっているかい。

   あるいは護身術でもいいけれど。」


 二人はまたも揃って首を横に振る。


 「 じゃ、仕方ないな。

   巨漢ぞろいの四人だから、下手に手を出すと怪我をする。

   何か起きても手を出さないと約束してくれるかな?」


 ロバートが言い終わると間もなく、ラウンジの入り口から四人のいかつい男たちが入ってきた。

 四人とも背が高いばかりではなく胴体もそれなりに太く、正しく巨漢である。


 警報は鳴らないので一応はセキュリティ・システムに承認されている者たちだ。

 二人のウェイトレスも特に不審者とは考えてはいないようだ。


 男たちは真っ直ぐに、二組の兄妹が座っている場所までやってきた。

 それからロバートやアマンダには目もくれず、至って丁重にシュラウド兄妹に話しかける。


 「 ラリィ・シュラウド様とサブリナ・シュラウド様ですな。

   少々お話がございますので我々と同道いただけますか。」


 「 話と言うのは何だね。

   構わないからここで話したまえ。」


 「 申し訳ないのですが、他人のいるところではちょっとできない話でして、どう

  か我々とご一緒に来ていただけませんか。」


 「 お断りします。

   ここにいるのは私の大事な友人だ。

   その人たちを置いて行く訳には行かない。

   話があると言うならここでしたまえ。」


 「 そうですか、では仕方がないですな。

   おとなしく付いてきていただければ怪我などせずにすんだのですが、・・・。

   力づくでも来て頂きましょう。」


 男はそう言うと、いきなり懐からナイフを取り出し、サブリナに突きつけようとした。

 途端にロバートが動いた。

 ナイフを構えた男の二の腕が一瞬の間に、見事に直角に曲がっていた。


 一瞬遅れて、その男が「ぎゃぁっ」と叫んで、床に崩れ落ちた。

 何事がおきたかとウェイトレスが目を丸くしてみている。


 全く状況が把握できていないのである。

 唖然としている三人の巨漢の前にロバートが立ちふさがり、悠然と言い放った。


 「 君たちの用件をあきらめて帰るならよし、さもなくば痛い目にあうことになる

  よ。」


 「 何をーっ。」


 そう言いながら、もう一人の巨漢がナイフを突き出してきた。

 そのナイフを躱しながら、手刀で叩き落した瞬間、男の巨体が宙を舞った。


 ズーンという音が響いて男が固い床に背中から叩きつけられていた。

 その間にも、ソファに座っていたはずのアマンダが宙を舞って一人の巨漢の首筋に猛烈な勢いで旋風脚を見舞っていた。


 地響きを立てるようにその男が倒れてゆく。

 たった一人残った巨漢が唖然としている間に、ナイフを持った腕をロバートに逆ひしぎで固められ、一瞬のうちに肘間接をはずされてしまった。


 すべてはほんの短い時間に起きたことである。

 気づいてみれば、二人の巨漢が床をのた打ち回っており、二人は完全に床に伸びていた。

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