第5話 正餐(2)

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)


 ホールド夫妻の話を切り替えるように、アマンダが次に質問した。


 「 ラリィ様は、ご趣味は如何ですか?」


 「 僕は、趣味といえるのは、音楽かな。

   貴方は、音楽はお好きですか。」


 「 はい、好きです。

   聞くのも、演奏するのも。」


 「 おお、それは、それは、是非貴方の演奏をお聞きしたいものだ。

   どのような楽器を演奏されるのでしょうか。」


 「 拙い腕ですけれど、金管楽器か木管楽器が得意だと思います。」


 「 うーん、それはいいことを聞きました。

   船長、明後日の昼食は、最後のフェアウェル・パーティが催され、妹が無断で

  申し込んだので私もエルノスの演奏でエントリーされているはずです。

   是非、アマンダ嬢の演奏も入れられては如何でしょうか。」


 エルノスというのは鍵盤楽器で156の鍵盤を持つ大型の楽器である。


 「 なるほど、アマンダ様。

   フェアウェルパーティでの演奏をご了承いただけますかな。

   エントリーはなるべく多いほうが宜しいかと思われますので。」


 「 あ、でも、私のは本当に自己流ですのよ。

   皆さんにお聞かせするほどのものではないと思いますけれど・・。」


 「 いえいえ、皆様が上手であれば本船のバンドマン達が失業してしまいます。

   音楽家ではないと承知の上で皆様が聞くのですから、自己流で結構なのです。

   むしろ、その方が親しみを持てますから・・・。」


 「 困りましたわねぇ。

   では、兄も一緒という条件ならばお受けいたします。」


 「 おいおい、アマンダ。

   僕にまで恥を掻かせるつもりかい。」


 「 何をおっしゃいますか。

   お兄様。

   私が管楽器を演奏するならば、お兄様も弦楽器を演奏していただかなくてはい

  けません。」


 「 それは、すばらしい。

   ご兄妹での演奏となればますますパーティが盛り上がることになるでしょう。

   是非お二人でご出演をしていただけませんか?」


 「 うーん、これは困ったなぁ。

   では、私も条件をつけましょう。

   サブリナ嬢も何かをしていただけるならば、エントリーいたしましょう。」


 「 あらん、とんでもないところに、飛び火しちゃったわ。

   どうしようかしら。」


 「 これはしょうがないね。

   サブリナ、そもそも、君が僕に押し付けたことだ。

   回りまわって自分のところへ戻って来たのだから、サブリナも何かしなくては

  ね。

   歌を歌ってはどうかな。」


 「 お兄様、そんなぁ。

   私の歌なんて皆さんに聞かせられるほどのものじゃないわ。」


 ラリィが反論する。


 「 そんなことは無いよ。

   わが妹ながら、サブリナの歌声はいい声だと思っているよ。

   何なら僕が伴奏してあげる。」


 ロバートが追い討ちをかけた。

 「 あ、それはいいですねぇ。

   僕らも大概の曲ならば伴奏できると思います。」


 ニコニコしながら聞いていたジョーンズ船長が締めくくった。


 「 じゃ、決まりましたね。

   シュラウド兄妹とブレディ兄妹の共演ということで。」


 夕食後、席を立ったロバートとアマンダをシュラウド兄妹が追いかけてきた。


 「 すみません。

   特にご予定が無ければ、お二人と是非お話をしたいので宜しければラウンジに

  参りませんか。」

   ロバートとアマンダは互いに顔を見合わせた。


 「 ええ、特に予定はございませんが・・。」


 ロバートがそう答えると、サブリナが付け加えた。


 「 普段、お兄様が若い女性に興味を抱くのは珍しいのだけれど、今日は特別みた

  いよ。

   アマンダ様にご執心みたい。」


 「 サブリナ、失礼なことを申し上げるんじゃない。

   アマンダ嬢が困るだろう。」


 傍目にもわかるほど赤くなってラリィが嗜める。


 「 あら、お兄様、正直に言わないといけないわよ。

   私は、アマンダ様のお兄様の方にご執心なんだけれどね。」


 サブリナがそう言うと、上目遣いにロバートを見つめる。

 その仕草が実に自然で可愛く見える。

 ロバートとアマンダがくすっと笑った。


 「 わかりました。

   お供いたしましょう。」


 四人は連れ立って食堂からラウンジへと歩いてゆく。

 その際に、何気ない仕草でサブリナが近づき、ロバートの手に触れた。


 触れた途端に驚いたような顔をして、慌てて「ごめんなさい」と離れていった。

 直後にラリィも一瞬動きを止めた。

 不自然な兄妹の動きであった。


 ロバートがアマンダにテレパシーで話しかけた。


 『 この兄妹は触れることで意識を探ることができるみたい。

   多分、サブリナが僕の思念に触れようとしてできなかったので驚いてラリィに

  報告した。

   ラリィとサブリナは思念で話ができるんじゃないかな。』


 『 そう、・・・。

   じゃ、少なくともテレパスではあるのね。

   うーん、サブリナじゃないけれど、私もラリィに興味深々と言うところね。

   ところで、食堂の出口に立っていた男、例の誘拐犯じゃなかった?』


 『 うん、後をつけてくるみたいだね。

   場合によっては立ち回りが必要だけれど、この兄妹はどうかな?』


 『 わからない。

   意識を探ればわかるかもしれないけれど、できれば避けておきたいわ。』


 『 そうだね。

   成り行きに任せよう。

   あの程度の男が四人なら二人で十分対応できると思うから。』


 四人の後をついてくるのは、身長が1.8レルレーベを超える巨漢である。

 対してロバートの身長は1.66レルレーベ、アマンダのそれは1.59レルレーベである。


 ラリィの身長もロバートとほとんど変わらず、むしろラリィの方が少し高いかもしれない。

 サブリナはアマンダよりも僅かに低い身長である。

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