第3話 惑星間宇宙船アトラズ124便
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
交易所からストーキングしてきた悪党どもがロバートとアマンダの行方を捜している頃、二人はフェリーターミナルのある階の人気のない場所にテレポートで移動しており、そこから徒歩でVIPルームに向かい、VIP ルームの入室手続きを行っていた。
VIPルームへ入るにはIDの確認と500ゼルの金額が必要なだけである。
室内は広く、数人の身なりの良い客がいたが、念のために思考を探った限りでは特に怪しい人物はいない。
VIPルームには専用の乗船カウンターがあり、二人は次の便の乗船手続きを済ませた。
小惑星ステーションからプレデスまでツインの特別室で5万ゼルの料金である。
今度の便は、外惑星からの定期船アトラズ124便であり、プレデス星系14個の惑星のうち、7つの外惑星を巡って、小惑星ステーションに寄り、さらに惑星エルカズの衛星ステーションを経て、プレデス衛星軌道の第一軌道ステーションへ行く。
ロバートとアマンダの二人は、いずれ別行動をとるにせよ、当面プレデスまでは、行動を共にすることにしていた。
小惑星ステーションからプレデス第一軌道ステーションまでは二泊三日の旅程である。
アトラズ124便は、惑星間宇宙船の中ではかなり古いものだが豪華仕様であり、比較的上客が乗ることで有名な便である。
このため、内部にはさまざまな趣向を凝らした社交場や売店が設置されている。
124便は1時間後の到着予定であり、さらにその1時間後にはステーションを出発することになっている。
ロバートとアマンダの二人は、そのスケジュールを見越して、ステーションに到着していたのである。
VIPルーム内では、ソフトドリンクは飲み放題である。
二人はヘルムンドという飲み物を頼んだ。
何かの果実ジュースであり、カルムルの黄色柘榴の味に似たものであった。
待合室で待っている客は、プレデスにある冶金会社の部長とそのお付、さらに、小惑星にある採掘基地の幹部一行であり、全部で8人いた。
そのほかにはVIP室専属の警備員2名とカウンター事務職員が1名、喫茶部門要員が一人待機しているだけである。
どうやら客の方は、冶金会社の本社担当部長が採掘基地の定例視察に訪れたものらしい。
1時間後、アトラズ124便が予定通りステーションに到着、その10分後に搭乗が開始された。
当然のことではあるが、待機している時間内に悪党どもがVIP室まで押しかけてくることはなかった。
搭乗手続きは、搭乗入り口に設置してあるカメラに顔を向けるだけでよい。
乗船手続きの際に顔写真が取られており、その顔と網膜パターンを自動的に機械が判別するのである。
VIPルームから乗り込んだのはロバートとアマンダ、それに、先ほどの一行のうち二人だけである。
ステーション搭乗口から船までは、一般乗船用、下船用各一本の伸縮性のチューブが取り付けられており、さらにVIPルームからはVIP専用の乗下船チューブが接続されている。
その中の踏み板を渡って乗客が船内に移動するのである。
VIP客については船内乗船口でキャビンアテンダントがつき、部屋まで案内してくれる。
ロバートとアマンダが案内された部屋は、居間と寝室に分かれ、寝室にはバストイレが付いている。
居間には大きなスクリーンがあって、旅の間に様々な映画などを観ることもできるようになっている。
また部屋に居ながらにして、売店へ様々な買い物注文をすることもできるようになっていた。
二人がまず始めたのは、衣装の準備であった。
着用しているのは採掘師に見合った服装であり、汚れたものではないものの、この豪華客船を徘徊するには余り適切なものとはいえない。
二人ともに5着の衣装を頼んだ。
普段着三着、正装着二着である。
普段着は、すぐに手元に届けられたが、正装着は夕刻になるという。
二人はすぐに普段着に着替えた。
それから、アトラズ124便の乗客を探査し始めた。
二人が真っ先に気づいたのは意識の読めない二人が乗っていることであった。
それもこの特別室区画であり、二つ離れた部屋に居る二人である。
かなりの能力者がいるようである。
ほかの人物の探査を続けると、明らかに物騒な連中三組が乗っているのが判明した。
一組はこの124便のスペースジャックを企んでいる者5名である。
第7番惑星から乗り組んだ乗客4名と乗員一名が加担し、船内各所に爆発物を既に仕掛けてある。
彼らの思惑では、次のエルカズ軌道ステーションを出発した後で、コックピットを占領し、プレデス政府のある惑星府ドラプレデスに宇宙船を墜落させる計画であった。
無論、軌道ステーション周辺には相応の武装艦が待機、巡回しているが、一旦、狙いをつけて加速された大型宇宙船は容易なことでは破壊できない。
仮に途中で破壊されても多くの破片がドラプレデスに降り注ぐことになり、多くの被害が出ることになるだろう。
その限界は地上20万レーベであると見込んでおり、それ以前に宇宙船が破壊されなければ、破片が地上に降り注ぐし、それ以前であれば破片は大気摩擦で燃え尽きることになる。
別な一組は第六惑星から乗り込んでくる評議会議員ウェルマン・フォーセットの暗殺を企んでいた。
さらにもう一組は、プレデス星系でも屈指の財閥であるシュラウド家の長男とその妹の拉致を次のエルデスまでに狙っている四人である。
身代金目当ての誘拐である。
ほかには怪しい人物は見当たらない。
次に、船内のデータ端末では非公開となっている乗船者リストを秘密裏に覗くと、シュラウド家の長男ラリィ・シュラウドとサブリナ・シュラウドは、この特別室区画の意識の読めない人物二人であった。
ラリィは24歳、サブリナは19歳であり、どちらも金髪碧眼の人物である。
乗船リストから見る限りは、外惑星の観光旅行に出かけた帰路である。
搭乗時の顔写真で見る限りはどちらも美男子、美女の類である。
「 あら、いい男だわ。
それにサブリナもかわいいわね。」
アマンダが独り言のように呟いた。
どうやらアマンダはラリィに興味を抱いたようである。
「 うーん、そっちのほうはともかく、・・・・。
テロ集団に、刺客に、誘拐犯とは、随分とてんこ盛りだね。
こいつは先が思いやられる。
最初に爆弾を無効にしておこうか。
後はたいした武器も用意していないようだから何とかなる。」
二人は、船内各所に仕掛けられた爆弾の中から信管だけを選んで瞬時に船外へ放り出した。
全部で12個の爆弾が仕掛けられていたが、信管の無い爆弾など燃料にも使えない代物である。
念のために船倉部分の手荷物なども確認したが不審な物件は認められなかった。
夕刻、二人の正装着が部屋に届いた。
それに着替えて、二人で食堂に向かう。
食堂は、特別室と一等船室客の専用食堂であり、正装が義務付けられている。
二人が食堂に入ると先ず目に付いたのはラリィとサブリナであった。
彼らのオーラがかなり大きなものであることに気づいた。
少なくともカヤタやキャサリンの初期の頃よりは大きいような気がする。
無論、ロバートやアマンダに比べるとかなり小さいものであり、精々が半分まで行くかどうか。
大きな円形テーブルに12人が座れるようになっており、ロバートたちはラリィやサブリナと同じ席であった。
定刻よりも少し早くついたので、まだ来ていない客が3人居た。
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※ 補足説明-1(ネタばれ含む)
第二子で長男のカールが訪れた異世界は「アルフォン」で、キャサリンはその世界の娘でした。
二人は互いに愛し合うようになって結婚し、キャサリンはカルムル世界に嫁にきたのです。
※ 補足説明-2(ネタばれ含む)
第一子で長女のグレースが訪れた異世界は「クレモナス」で、カヤタはその世界の領主でした。
カヤタがグレースに恋をし、最終的にグレースはクレモナス世界のカヤタの元に嫁に行きます。
※ 補足説明-3(ネタばれ含む)
ロバートは、金属分子状態を知覚することができます。まぁ、所謂ラノベの異世界ファンタジーで言えば、チートな土魔法や錬金術に相当する超能力を持っています。
このため鉱石から純粋元素を抽出したり、破損した部分の修理などは簡単にしてのけるわけです。
因みに、ロバートもアマンダも取り敢えずは魔法使いではありませんが、かなり強力な超能力者なのです。
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