第2話 小惑星帯の宝

            By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)


 ロバートとアマンダは、最初に難破船の周囲に結界を張った。

 その上で空気の無くなった船内に新鮮なカルムルの空気を送り込む。


 それからようやく船内に出現した。

 その状況で、二人の生命を危うくするような異常は認められなかったが、船は隕石であちらこちらに穴が開いている。


 機器類で故障しているものもある。

 それらの修理はロバートが請負い、アマンダは点検済みの宇宙服を着込んで船外に出た。


 船外の船名表示を予め計画していた船名バウンティに変えてしまうと、周囲を巡回して記載漏れが無いように確認する。

 その間にロバートは、手近の金属を分子状態にまでばらばらにして再構築し、船体の補修と機器類の修理を行った。


 船外から戻ったアマンダは思念を凝らして周囲の安全を確認する作業を継続する。

 予定された作業は2時間ほどで終わった。


 問題は20年動くことのなかった核子イオンエンジンが動くかどうかであるが、幸いにして何とか動いた。

 そこからロバートが見つけた小惑星までは数時間の距離であった。


 小惑星とは言いながら精々が長径で数十身長分の大きさの岩塊である。

 その傍に宇宙船を止めるとロバートが岩塊からロナリウムを直接抽出する。

 抽出したロナリウムは、この世界の重量単位で960バルドであった。


 ほぼカルムル世界の馬2頭分の重量であるが、容積はごく小さい。

 ロバートは持ち運びに便利なように10分割にしていた。


 全体を合計しても人差し指の長さほどの立方体よりもわずかに小さいくらいである。

 金よりもはるかに重い金属なのである。


 これだけで、およそではあるが、96億ゼルの金額になる。

 抽出したロナリウムを貨物倉に納めると、老朽採掘船バウンティ号は小惑星帯にある前進基地ステーションに向かう。


 そこには政府公認の鉱物取り扱い公益所があるのである。

 ステーションの駐機スペースにバウンティ号を何とか押し込んで、駐機スペース入り口の外部ロック閉鎖が確認できるとすぐに役人数人が乗り込んできた。


 積荷・人員の確認と検疫である。

 最初に装置でID検査を行い、いくつかの検疫上の質問があり、次に入港目的と積荷の確認を受けた。


 税関職員は、積荷のロナニウムが約960バルドと聞いて目を剥いた。

 ご親切にも忠告があった。


 「 若いお二人さん、悪いことは言わない。

   すぐにこの宝物を公益所に持って行って、売りなさい。

   代金を口座に振り込んでもらったら、大至急一番早い惑星間フェリーでプレデ

  スに向かうことだ。

   このステーションは山師の集まる場所だ。

   中には詐欺師もいれば、悪党もいる。

   ステーションで食事や休息をとる暇があったら、フェリーの特別室に入った方

  がいい。」


 「 御忠告ありがとうございます。

   僕らもそうするつもりでいます。」


 手続きが済むと、ロバートとアマンダはすぐにロナニウムを鋼製の箱に移して台車付の牽引車両で、公益所に向かった。

 公益所で台車を切り離し、カウンターで鉱石売り払い申請を行う。


 係官は慣れた手つきで必要事項を陽電子コンピューターに入力してゆくが、突然手が止まった。


 「 あー、・・・・・。

   ロバートだったな。

   この量と物は間違いないのか?」


 「 ええ、無重量空間ですので正確な重量はわかりませんが、船搭載の質量検査機

  では、間違いないと思います。」


 「 そりゃぁ、純粋なものならそうだろうが、・・・。

   間違いないのか?」


 係官は遭えてロナリウムの名前を出さなかった。

 周囲には多数の取引に来ている山師がたくさんいる。

 その中でロナニウム960バルドなどと言ったら、いずれ犯罪が起きるに違いないからである。


 「 ええ、間違いないと思います。」


 「 わかった。

   じゃ、別の部屋で検査するから荷物を持ってついてきてくれ。」


 公益所は人口重力でプレデスの六分の一に抑えられているが、それでもロナニウムの重量160バルドは、大の男二人分の重量がある。

 台車を押しながら係官の後をついてゆく。


 完全に周囲から隔離された部屋で係官は言った。


 「 私は、べリントンだ。

   じゃあ、こいつを動かさなければならないが、・・・・。

   分けてあるのかね。

   ここの重力でも本来960バルドのこいつは幾ら何でも持てないが・・・。」


 「 ええ、10個に分断してこいつに入れてあります。」


 「 よかった。

   金よりも貴重な金属だからな。

   機械で持ち上げるのはちょっと問題なんでな。

   じゃ、ひとつずつ、この質量分析器に入れてくれ。」


 カールとアマンダは、鋼製ケースを開けて、小さな塊をひとつずつ、質量分析器に入れてゆく。

 角砂糖が4個分ほどの大きさであるがそれでも16バルドほどあるので、持ち上げるにはかなりの力が要る。


 質量分析が終了すると、原子組成解析機にかけられ、最終的に純粋ロナニウム964.37バルドであることが判明した。


 「 さてさて、こいつはこのステーション始まって以来の高額ものだ。」


 チラッと近くにある表示装置を見てから、ベリントンは言った。


 「 ロナニウムは、今日のこのステーションの相場では1レルバルドが1241

  6.75ゼルだ。

   プレデスに持ってゆくと5%がた高く取引される。

   が、私はここで売ったほうが良いと思うが、あんたがたどうするね。」


 「 ここで売却するつもりで来ました。」


 「 そうか、・・・。

   多分知っているだろうが、ここでは手数料として売買金額の2割をとることに

  なっている。

   さらに、源泉徴収の税金が2割かかることになっているが構わないんだな。」


 「 結構です。」

 「 わかった。

   では、71億5204万8千ゼルがお前さんたちの取り分だ。

   大規模採掘を行っている鉱山事業者は別だが、少人数の採掘師で1億ゼルを超

  える金額を一度に手にしたのはあんた達が始めてだ。

   おめでとう。

   で、振込先は?」


 「 僕と妹の口座に半分ずつ、振り込んでください。

   共同経営ですから。

   それと、船の処理なんですが、売却か廃棄の手続きがこちらでできますか。」


 「 えーと、・・・。

   バウンティ号か、こいつはかなりの年代物だな。

   こいつは買い手がつかんかもしれんなぁ。

   廃棄するなら5万ゼルほどかかるが、どうするね。

   買い手がつくまで待つとなればドック使用料が毎日3千ゼルはかかる。

   20日も待てば廃棄処理よりもかかることになるが・・・」


 「 廃棄してください。

   必要ならば新たに船を買います。」


 「 そうだろうなぁ。

   71億ゼルもあれば、最新の恒星間豪華客船10隻でも買えることになる。

   じゃ、この廃棄同意書にサインしてくれ。」


 ロバートとアマンダの二人が署名する。


 「 じゃ、廃棄料金5万ゼルと税金5000ゼルを差し引いて、71億5199万

  3千ゼルがあんたらの取り分、一人当たり35億7599万6500ゼルの振込

  みになるがそれで良いな。」


 「 結構です。」


 「 じゃ、振り込むからあんたらの口座をもう一度確認させてくれ。」


 ベリントンはそういうと小さな装置をロバートに渡した。

 それを目に当てるとIDが確認され、同時に口座も確認される。

 ロバートとアマンダが確認作業を行うと、すぐにベリントンが手続きを行った。


 「 完了だ。

   ほう、あんたら借金も無しかね。

   採掘権は、・・・2ヶ月前に取得、・・・・。

   たいしたもんだ。

   僅か2ヶ月、しかも、その若さで億万長者か。

   まぁ、悪いことは言わん。

   できるだけ早く、ステーションを出ることだ。

   うろうろしていると必ず騒動の元になる。

   私らは、商売柄口が堅いが、山師の連中は感が鋭い。

   特に別室に入る連中は、高額な金額を手にするものと相場が決まっている。

   あんたら、ここから出た途端に狙われることになる。

   ここには裏口もあるが、すでにそいつも知られている。

   裏口はむしろ人気のない場所だから、余り進められないが、どうするね。」


 「 ご心配いただいてありがとうございます。

   ですが、大丈夫です。

   こう見えても結構腕っ節には自身があるんですよ。

   正面から出てゆきます。」


 二人はベリントンに別れの挨拶をして特別検査室から出た。

 手に持っているのは、身の回り品の入った古ぼけたバッグだけである。


 受付カウンターの前にいる連中が一斉に二人へ視線を注ぐ。

 二人は涼しい顔でその前を通り過ぎる。

 屯していた連中の中から3人ほどが二人の後をつけ始めた。

 さらにその後に二、三人が続く。


 公益所を出ると長い通路があり、その先が曲がり角になっている。

 それからかなりの距離を置いて、垂直シャフトがあり、それに乗って、最上階に行くとフェリーターミナルである。


 VIP用の待合室に入ってしまえば保安要員も常駐するので大丈夫である。

 逆にそこまでの間で襲撃するのが彼らのつけ目だった。


 二人が角を曲がった途端に、後をつけていた連中が一斉に走り出した。

 公益所からの視界に遮られたところで襲撃するつもりであった。


 だが、角を曲がると二人の姿は無かった。

 その角から垂直シャフトのある区画まで一本道の長い通路である。

 逃げ隠れするような場所などあるはずも無かった。


 「 あいつら、どこへ行きやがった?

   探せ。」


 首領格の者がわめいた。

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