プレデス世界の兄妹
@Sakura-shougen
第1話 プロローグ(旅立ち)
パラレルワールド・アルカンディア風雲録の外伝-2の投稿を始めました。
シリーズ物でエドガルドの子孫が登場するのは、外伝ー1の「ヘイブン世界のギルバート」と同じです。
外伝ー1では、エドガルドの曽孫であるギルバートが主人公でしたが、この外伝ー2「プレデス世界の兄妹」では、エドガルドの次男と次女が主人公となりますし、時代背景は地球で言えば22世紀よりもかなり未来の世界と考えても宜しいかもしれません。
そのために、ファンタジーというよりもSF的要素が多分にあるのですが、自らの力で意図的に行う異世界転移が発端となりますので一応ファンタジーに区分しています。
概ね、毎日一話を目標にして投稿したいと考えています。
お楽しみいただければ幸いです。
By: Sakura-shougen(サクラ近衛将監)
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カルムルの世界でカールとキャサリンの再度の結婚式が挙げられてから2ヵ月後、ロバートとアマンダの二人が揃ってエドガルドに相談に来た。
話は以前から予想されたことではあった。
二人とも異世界への旅立ちを許してほしいという。
それも同じ世界への旅立ちだった。
理由は簡単である。
ロバートは21歳、後2ヶ月で22歳になる。
一方でアマンダも10日ほどで21歳になる。
二人とも伴侶を求める旅に出たいというのである。
グレースとカールがそれぞれ相手を異世界で見つけたので、自分たちもその可能性を探ってみたいというのである。
エドガルドはそうなる状況を見越しており、今後も適齢期を迎える子供たちが続々と異世界へ伴侶を求めるかもしれないという危惧を抱いていた。
ロバートにも、アマンダにも縁談話がないわけではない。
見目麗しき令嬢や層々たる出自を持つ息子などからの縁談話が引きもきらない状況ではある。
だが、宰相がいくら話を持ちかけても見合いすら実現していないのである。
ロバートやアマンダは、それらの候補者に会う前から相手の人格や能力などを見極めているのだから、それも無理からぬことである。
4人の母達も子供達それぞれが選ぶべきと思っているから、決して押し付けるような真似はしないが、ある意味で心配はしていた。
男であるロバートはともかく、20歳のアマンダは、カルムルではそろそろ行かず後家と呼ばれてもおかしくない年頃なのである。
子供たちの能力を知った時に何となく感じた不安が的中した。
カルムルの世界には子供たちが伴侶とすべき相手などいないのである。
もしいるとしたならば、子供たちがその思念で見つけてしまうはずだった。
母たちにできることは少なかったのである。
エドガルドにしても敢えて子供たちに伴侶を見つけるようなことはしなかった。
子供たちの判断に任せるべきだと信じていたのである。
だからロバートとアマンダの申し出に対しても特に驚きはしなかった。
ただ、今一人適齢期に達していたアリオンは既に伴侶を決めていた。
島の漁民の娘を選んだのである。
その娘は特殊な能力など何もない極普通の娘である。
賢く、器量よしで、性格が良いことが取り柄であった。
エドガルドもアリオンから報告を受けて実際に会いに行ったことがある。
カールとキャサリンの結婚式が行われる2ヶ月前である。
無論、単なるアリオンの知人として会っただけである。
確かに特殊な能力は持っていないが、純真、誠実な娘であり、アリオンを愛し、アリオンと結ばれることを本当に望んでいた。
そのアリオンの結婚式は10月と決まっている。
エドガルドは変装して参加することを表明していた。
今、更に適齢期を迎えた二人の子供が伴侶探しの旅に出ることについて、エドガルドは承認してやるつもりである。
そのための布石として敢えて重臣たちにも異世界の存在をそれとなくほのめかしていたのである。
「 もう、行く先は決めたのかね?」
ロバートが返事をした。
「 はい、プレデスという世界を二人で選びました。」
アマンダが後を続ける。
「 プレデス世界は、カール兄様が訪れたアルフォンよりも更に文明が進歩してい
ます。
その惑星の住民は、既に宇宙空間へも飛び出しており、別な恒星系へ殖民を始
めてもいます。
未だ異星人との接触はありませんが、このまま宇宙開発が進展すればその可能
性もあります。
別に異星人との接触を期待しているわけではないのですが、この世界ならば人
口も多くあるいは私たちに相応しい相手が探せるかもしれないと考えたのです。
カルムルの世界に住む人々は凡そ3億人、アルフォンでは60億ですが、プレ
デス文明は4つの恒星系に跨っており、270億の人口があります。
要は確率の問題でもあるのですが、単純計算でもカルムルの90倍の可能性が
あります。」
「 僕は、殖民星系であるランドエルとコレルへ、アマンダは主星系のプレデスと
ザルツへ分散することを考えています。
互いに情報を共有しあって、有望な者がいれば、場合によっては合流します。
星系間での移動は試みたことはありませんが、場合によってはできるかもしれ
ませんし、アルフォンではテレパスとして知られる能力が、僕とアマンダの間で
どの程度の距離で可能かも調べてみたいと考えています。
距離によってテレポートもテレパスも難しいのであれば、週に一度は情報交換
のためにカルムルに戻ってきます。」
「 なるほど、文明の進んだ世界では、アルフォンのように色々な通信が発達して
いるようにも思えるが、その辺は調べたのかね。」
「 はい、恒星系同士の通信は、超光速度通信がありますが、それでも一番近いラ
ンドエルとコレルでさえ、数時間の時間差を生じており、とても会話ができる状
態ではありません。
人や物資の星系間移動に要する時間は1ヶ月近くにもなります。
これでも光の速さよりは遥かに早い速度なのですが、・・・。
何しろランドエルとコレル間の距離は、光の速さで11年ほどかかります。
光の速さで1年進む距離を1光年と言いますが、プレデスからランドエルまで
は15光年、プレデスからザルツは19光年です。」
「 ふむ、基礎的知識は随分と溜め込んだようだが、・・・。
二人ともその異世界には十分に溶け込めるのかな。」
「 はい、お父様が心配なさるようなことは何も・・・。
既に、グレース姉さまが試みた受精卵と精子での実験も終わっていますし、容
姿を含めて私たちと何ら変わりのない人間であることは確認済みです。」
「 危険性はどうかな。」
「 正直なところ、未知数の部分が多いのも事実です。
カルムルやアルフォンと同様に馬鹿なことをしでかす人間が相当多数おります
し、主星系プレデスと殖民星系の間には若干の不穏な気配があります。
プレデス政府が宇宙軍を掌握していますので、今のところは平穏を保っていま
すが、プレデスの政治が評議会と言う一握りの人間によって左右されることで、
色々な利権がここに集中し、政治腐敗の原因にもなっているようです。
評議会議員が世襲制であることも殖民星系の住民感情を逆撫でしているようで
す。
評議会議員がプレデスに集中しているために、殖民星系の意向は中々に評議会
には伝わらないのです。」
「 アルフォンでは世界の終焉を迎えるような兵器を生み出していたが、プレデス
も同じなのかな?」
「 はい、残念ながら、・・・。
惑星を破壊してしまうような爆弾もあります。
デラル爆弾と言われるもので、一旦爆発すると惑星全域で核火災が連鎖的に発
生し、地殻全体が崩壊します。
惑星に残る生物全てが死に絶えると言われています。」
「 二人の話を聞いていると、何とも危険な場所になりそうだが、その爆弾は一体
幾つあるんだ。」
「 プレデス宇宙軍の艦隊が4つありますが、艦隊それぞれに2個ずつあります。
軍の最高機密であり、プレデス評議会議員と各艦隊の幹部がその所在を知らさ
れており、使用は評議会の全会一致を原則としています。」
「 原則と言うことは例外もあると言うことだな。」
「 ええ、評議会議長と軍の最高司令官が止むを得ないと認めたときには緊急に使
用権限を認められています。」
「 その議長と最高司令官は信用の置ける人物かな?」
「 現在の議長は信頼の置ける人物と思えますが、最高司令官の方は少々危ないか
もしれません。」
「 ふむ、国王が馬鹿だと国民が困るが、同様に軍事を束ねる者が危ない奴だとク
ーデターが起きる可能性もあるのじゃないのかな。」
「 可能性はありますが、一方で評議会あっての軍でもあります。
評議会議員は司令官の任命権を持っていますし、いつでもその任命を白紙に戻
せます。
評議会議員が常時携行している機器のスイッチを入れ、その数が議員総数の8
割に達すると、軍の指揮官に任命された者が即座に殺害されます。
一旦入れられたスイッチは元に戻せません。
一方でまた、評議会議員が死ぬとそのスイッチは無効になります。
対象となる軍の指揮官は将官に限られており、その任命段階で脳内に特殊な装
置を埋め込みます。
装置は1時間以内に脳内組織と結びつき、無理に外そうとすれば直ちに殺害さ
れます。
殺害指令は超光速通信で行われ、対象となる指揮官がどこにいても生き残るこ
とはできません。
評議員を同時に全員殺してしまえば別ですが、評議員の三分の一が三日の間に
死亡する事態になった場合は特殊な発動条件が起動し、生き残っている誰かが既
に押していたり、生き残ったものがスイッチを押したりすれば軍の指揮官は死亡
します。
仮にクーデターを起こすとすれば当該指揮官にはかなりの覚悟がいることにな
ります。」
「 なるほど、・・・。
だが、だからと言って軍が歯向かわないと考えるのは間違いだろうね。
抜け道など幾らでもある。」
「 ですから軍の動きについては頻繁に確認するつもりです。
同様に注意を必要とするのは、プレデスの都市部に潜伏する反体制派の動向で
す。
手製爆弾で政府要人を狙うなどかなり過激なテロ活動を行っています。」
「 仮にお前たちが別々の星系に住むとして、どのような立場で入るつもりでいる
のかな。」
「 そのための準備としてIDの入手と、資金の準備を考えています。
IDは、こちらで言えば鑑札のようなもので、眼の網膜映像で確認されます。
IDがないと交通機関の利用も銀行口座の利用もできません。
IDについては、ロバート兄さんのコンピューターの知識が随分と役立ちまし
た。
基本的には、アルフォンの世界と同様の原理ですが、それをより高度な技術で
進展させたものです。
ただ、僕たちで十分改変が可能なものですので、プレデスの住民なりそれぞれ
の星系の住民としていくらでも登録ができます。
資金については、プレデス星系の小惑星帯でレアメタルを採掘したと言う設定
で入手するつもりでいます。
ロナリウムというレアメタルが非常に高値で取引されています。
通貨単位はゼルという単位が使われており、千ゼルあれば家族四人が一ヶ月の
間十分贅沢をして暮らせますが、髪の毛一本ほどのわずかな重さのロナリウムが
一万ゼルで取引されています。
僕が見つけた小惑星には馬2頭分ほどの重量のロナリウムがあることがわかっ
ていますので、それを抽出して売るつもりでいます。
最初にまず中古の採掘船を入手するところから始めますが、一応その目処も付
いています。
二十年ほど前に難破した採掘船が無人で漂流しておりましたので、その再登録
から始めます。
老朽船ですが若干の修理で短距離であれば十分に機能するものです。」
エドガルドは、頷いてから注意を付け加えた。
「 まぁ、何かあってもお前たちなら十分に対応できるとは思うが、万が一の場合
にはこちらに連絡を寄越すようにしなさい。
後はお母さんたちの了承も得なければならないよ。」
「 はい、これからお母様たちの所へ伺います。」
しばらく後で、母たち四人の集まった部屋から出てきた二人の若い男女の顔は喜色満面の笑顔を見せていた。
母たちの了解も無事に得られたのである。
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